ネコとライオン、並べてはじめて見えてきたものとは。岩合光昭さん“ネコライオン”誕生秘話に迫る【前編】

ネコとライオン、並べてはじめて見えてきたものとは。岩合光昭さん“ネコライオン”誕生秘話に迫る【前編】

大自然の中で生きる野生動物から、犬や猫などの身近な動物まで、様々な動物にカメラを向ける世界的動物写真家・岩合光昭さん。その取材対象の中でもとりわけ多くの時間を割いて撮影を続けているのが猫とライオンです。岩合さんに伺った、「ネコライオン」誕生秘話、そして猫の魅力とは。

  • サムネイル: PECO編集部
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大自然の中で生きる野生動物から、猫や犬などの身近な動物まで様々な動物にカメラを向け、世界を舞台に活躍する動物写真家・岩合光昭さん。その取材対象の中でもとりわけ多くの時間を割いて撮影を続けているのが、猫とライオン。
「ネコは小さなライオンだ。ライオンは大きなネコだ。」そう語る岩合さんの目に、猫とライオンはどう映っているのでしょうか。
岩合さんに伺った、「ネコライオン」誕生秘話、そして猫の魅力とは。

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多くの人を魅了する写真展『ネコライオン』誕生の秘話

ネコとライオン、並べてはじめて見えてきたもの

PECO(以下ーー)2013年から始まり、以後日本各地で開催された際には多くの人気を集めている写真展『ネコライオン』ですが、「ネコ」と「ライオン」を組み合わせるというアイデアはどこから着想を得たのでしょうか。

岩合光昭さん(以下略)

「実はとても単純な話なんです。写真美術館の方から写真展開催のお話をいただいた時に、僕は当初猫の写真展を提案していたのですが、美術館側から『いつもと少し違ったテーマにしてほしい』という要望をもらったんです。『じゃあ野生動物のライオンはどうでしょう』と持ちかけて、色々話し合った結果、気づけば猫とライオンを組み合わせることになっていました(笑)。
そんな単純な理由だったんですが、猫とライオンを並べてみたらおかしさというか、すごく興味深いんですよね。猫とライオンは家畜と野生動物という大きく違った生き方をしています。ですが同じネコ科、言うならば親戚同士のようなもの。同じ仕草をしたり、共通点もたくさんあるんです。その中でも微妙な差異が浮き彫りになったりして…本当に興味深い。猫を見てライオンを見直す良い機会になればと思っています」

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ネコとライオンを通して、“自然を見つめ直す”

ーー写真展『ネコライオン』を通して、お客さんの反応はどうでしたか。

「半ば思いつきからスタートした写真展『ネコライオン』でしたが、写真展に来たお客さんが写真を見ながら自然に笑って楽しんでくれているので、『開催してよかった』と心から思います。ある来場者の一人の方から『ライオンって地平線の世界で見ると意外と小さいのね』という感想をいただきました。この方のように、地球の中での動物や人間の小ささを痛感することであったり、自然を敬愛する心というのはとても大切なんですね。猫を通してライオンを見てもらって、猫やライオンから、大きく言えば“自然”を見つめ直してもらえたらと思います。笑って楽しんでくれているお客さんに『アフリカに行ってみようかしら』と思っていただけるといいですね」

ーー大自然の中でライオンを撮影した際の、印象的なエピソードをお聞かせください。

「“ライオンは顔を洗わない”ってライオンの研究者の方に言われたんですけど、一週間経たないうちにライオンがちゃんと顔を洗っている姿を見ました。でも、その研究者の方が間違っていたわけではなく、研究者の観察しているライオンの群れは、たしかに顔を洗わなかったんです。ライオンも猫も『こういう動物ですよ』って、十把一絡げのように言えないんですよね。人間と同じように、家族や血統といった結び付きが、それぞれの伝統に繋がっていくのだと思います」

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ライオンは“餌”を食べていない

ーーライオンは猫と同じ仕草をするというお話がありましたが、ライオンを撮る際も猫と同じような感覚で撮影されているんでしょうか。

「いえ、猫の撮影よりもっと気を付けます。たとえば猫は人から餌をもらって人との関わりを持つ動物ですが、ライオンはそうじゃありません。自分で狩りをして殺した獲物の肉を食べるわけです。本やテレビでは『ライオンが餌を食べる』という表現がされますが、そうではない。ライオンは餌を食べているわけではないんです。そういった言葉が、ライオンを含め野生動物の見方が変わらない一因なのではないでしょうか。『シマウマを食べています』『ヌーを食べています』『トムソンガゼルを食べています』と、表現を少し改めるところから、ライオンへの理解や興味が増してくるんじゃないかと思います」

ーーライオンと猫とでは、撮影する心構えが決定的に違うのですね。

「そうですね。ただ、猫や犬を撮る時にはまず距離感を決めますが、それはライオンも同じです。ライオンにとってもやっぱり“距離”というものがあるので、まず相手を見ることから始めます。こっちをジーっと見ていたら近づけませんが、ライオンが顔を洗い始めたら『ちょっと近づけるかな』みたいな。そういった意味では、猫とライオンの似ているところや違うところなどが発見できます」

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「ネコライオン」の意外な誕生秘話や、ライオンと猫の違いや共通点など、実際に撮影で相対している岩合さんだからこそ語れるお話の数々。この後インタビューの話題は、岩合さんの考える猫の魅力や、猫に対する想いなどに移りました。

猫を通して、人の暮らしが見えてくる

ーーNHK BSプレミアムで放送されている『岩合光昭の世界ネコ歩き』をはじめ、岩合さんは世界中の様々なところで猫の撮影を続けていらっしゃいますが、お気に入りの撮影スポットを教えてください。

「難しいですね…各国、良いところはあると思うんですけど、猫の密度でいうとイスタンブールとかが多いですね。トルコやモロッコもそうですけど、イスラム圏は猫を大切にしてくれる国々が多いんです。他にも海上交通の栄えたギリシャなどの地中海も猫が多いような気がしますね」

ーー印象に残っているエピソードなどはあるでしょうか。

「とにかくロケの一回一回がすごく大変で(笑)。全部楽しいので一つに絞るのは難しいですが、一番最近撮影に行ったのがラトビアというバルト三国の一国だったんですね。そこで、すごく絵になるようなたたずまいの、猫を本当に愛おしそうに抱くおじいちゃんに出会いました。このおじいちゃんが暮らす家に、中年のご夫婦もいらっしゃったので『おじいちゃんはこの方たちのお父さんかな?』と思っていたのですが、実はそうではない。ご夫婦がこの農園を買った時におじいちゃんも一緒についてきたそうなんです(笑)。血の繋がりは無くても一緒に暮らして、蒔割りをしたり…。とても素敵なことだと思いました。撮影ではそういう出会いもあり、猫を通して人の暮らしが見えてくるんです」

ーー今までのお話を伺っていると、岩合さんは猫の表情を通して“地域”も見ているという印象を受けました。

「猫ってその地域の地面の色や、風の吹き方、日の当たり方など、“住んでいる地域の自然”と共に暮らしていると思うんです。人も本来同じだと思いますが、猫の動きを見ていると、僕たちがどこか遠くへ置き忘れてきたものを思い出させてくれるような気がします。猫はまず朝起きると、必ず風向きを確かめる。そしてちょっと空気が湿っているようだったら、丸くなるんですね。それは雨が降り出す合図。その日その日の天候、大きく言えば“その地域の自然と生きる”ことの大切さを、猫は思い出させてくれる。きっと私たちは猫を見るとき、そうした何かしらを感じ取っている。それが、どうしようもなく猫に惹かれてしまう理由の一端だと思いますね」

「分からないところ」が猫の魅力

ーー岩合さんから見て、「猫の魅力」とはなんでしょうか。

「一言でいうと『分からないところ』でしょうね。分からないことって知りたくなるじゃないですか。それは人間関係でも同じことで、例えば男女関係一つにしても、相手の女性や男性のことを知りたいと思うでしょう。そこがポイントで、『相手のことを知りたい』と思う気持ちが猫の魅力を語る上で大事じゃないかなと思います」

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「でも、『相手のことを知りたい』だけではなく『相手のことを考える』ことも同じくらい大切です。ついつい『知りたい! 近づきたい!』と気持ちが先走ってしまいがちですが、犬や猫に対しても、被写体である相手を考えることによって気配りや気づかいが生まれるんですね。それを忘れてしまってはペットと一緒に暮らしていけないし、写真も撮影できないと思います。みなさん、撮影するときに『撮るぞー!』と気合が入りすぎです(笑)。そうすると、相手も緊張してしまいます。
でも、40年間猫と触れ合ってきていても分からないことばかり。お願いだから猫のことは僕に聞かないでください(笑)」

猫好きにとっては、“ずっと猫ブーム”

ーー今は空前の猫ブームと言われていて「ネコノミクス」という言葉も出ていますが、それについてはどうお考えでしょうか。

「猫好きにとっては失礼な話だと思います、猫好きはずっと変わらず猫が好きなので、何が一体“ブーム”なんだって(笑)。あたかも猫が増えたような、不思議なイメージが作られてしまっていますが、単純に飼い犬が少なくなっているんですね。犬は散歩させる必要があるので、高齢化社会などのさまざまな要因が関係して少なくなったんだと思います。でも猫ブームと言われるのは嬉しいですよ。人ではなく猫の立場になって考えてくれる味方が多くなりそうで。ずっと猫ブームでいいくらい。あ、犬も好きですよ」

ーー岩合さんの写真には「一体どうやって撮ったんだろう?」と聞きたくなるような写真が多くあります。後編では岩合さんが撮影で気を付けていることや、誰でも簡単に猫を上手く撮影できる方法についてお伺いします。

インタビュー後編はこちら
大切なのは“光”と“まるみ”ーー。岩合光昭さんに伺った、猫を上手に撮影する秘訣とは【後編】

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