写真集『街貓』の作者、葉漢華(イップホンワ)さんは、香港で有名な週刊誌『Next Magazine』の経済部専属カメラマンだ。
経済部での仕事は意外にも時間に自由があり、撮影と撮影の合間に、仕事で初めて訪れた街の小さな裏路地や、古い住宅の密集する下町をぶらぶら歩きながらカメラに収めるのが習慣になった。
ふと気が付くと、街の風景写真に、いつの間にか猫たちが写り込むようになっていた。
郊外では、緑豊かな環境で暮らす猫も多く見られる
最初は、特に意識したわけではなく、街の一部としてシャッターを押していたのだが、環境や状態が決していいとは言えない猫たちの過酷な現実を自分の作品の中に垣間見た時、おのずと被写体は風景から猫へと変化していった。
そして、いつしか猫を探して街を歩くようになったのである。
路地裏には、子猫たちが隠れるのに丁度いい場所が多い
写真仲間のネットサークルや、自身のブログやフェイスブックで作品を発表してみると、さまざまな反響の声があがった。
だがそれは、街にこんなにたくさんの猫がいるなんて知らなかったとか、よく通る道なのに気にもしていなかったとか、街猫に対する無関心さが窺えるものばかりだった。それらの声を聞いて、もっと多くの人に街猫のことを知ってほしいという思いが強まっていった。
そんな矢先、いつものように猫を求めて向かった裏路地で、病気の猫に遭遇した。そのエリアで猫の世話をするボランティアたちと出会い、彼らの活動を知ったことがきっかけで、自分が写真で何をすべきかを確信。
ボランティアの努力で街猫の数も少なくなってきている
2012年に市民が多く利用する文化センターを選び、個展を開いた。
そして、作品が編集者の目に留まり、写真集出版へと繋がっていったのである。
出版以来、本業より街猫のカメラマンとして注目を集めている
10年近くも街猫を撮り続け、今ではどこに行けばどんな猫たちに出会えるかも熟知している。
自分から猫には近づかない。猫が逃げてしまえば追わず、近寄ってくれば頭をなでる。付かず離れず、ちょうどいい距離で街猫たちの日常をカメラに収め、ありのままを作品に投影する。
その作品は時には愛らしく、時には目を背けたくなる残酷な現実も隠さない。優しくも厳しい、カメラマンの目がそのまま反映されているようだ。
「レンズを通して見た街猫たちの姿が、香港の現実を象徴しているように思えてならないんだ」。取材中のこの一言が、印象的だった。それは、香港に限らず、世界中のどこの地域でも言えることかもしれない。今、街猫たちがどんな表情で暮らしているのか、これからも作品で伝え続けてほしい。
葉さんは、撮影中に出会い縁あった猫と同居中だ
Facebook https://www.facebook.com/streetcatfoto
写真・葉漢華/文・塚碕由香
Yuka Tsukazaki
猫3匹と香港在住のライター。広東語で通訳、翻訳、日本語教師などもこなす。著書に『香港の大スター☆クリームあにき』(辰巳出版)。