【獣医師監修】どうすれば上手くいく? 犬の多頭飼い。新入り受け入れの心がまえから日常生活まで
単頭で犬を飼っている人は、愛犬のためにもう1頭飼ったらどうかな、と頭をよぎることってありませんか? 実際のところ多頭飼いは単頭飼いとどのように違い、どうすれば上手くいくのでしょう。今回は、多頭飼いを始める前の準備から日常生活の注意点まで、多頭飼い成功のコツについてお話します。
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監修:電話どうぶつ病院Anicli(アニクリ)24 三宅亜希院長
多頭飼いのメリット・デメリット
多頭飼いをすれば、楽しいこともたくさん増えますが、もちろんそればかりではありません。メリット・デメリットをよく考え、多頭飼いができるかどうかを判断しましょう。
犬にとってのメリット
◆社会性が身につく
本来、犬は群れをつくる動物のため社会性を身につける必要があります。それができていなければ、犬本来の喜びである、他の犬とコミュニケーションしたり、仲間と一緒に遊んだりといった経験ができません。多頭飼いをすれば群れの中でルールを覚えることができ、社会化も促進され、群れで生活するという犬らしい生き方に近づくことができます。
飼い主にとってのメリット
◆意識が変わる
単頭飼いに多いのは、飼い主が溺愛するあまり、社会化やしつけが不十分になること。多頭飼いでは、単頭飼いの時と同じように甘やかしてしまうと、犬たちがコントロール不能に。愛情を注ぐだけでなく、しつけをきちんとしよう、という意識が飼い主により芽生えるはずです。
◆楽しみが増える
犬は1頭1頭性格がまったく違います。その違い自体が飼い主にとっての楽しみになりますし、犬同士が仲良く遊んだり、一緒に眠ったりしているところを見るだけでも癒やされます。
◆しつけの労力が軽減される
先住犬のしつけができていれば、新入りが模倣することもあるため、飼い主の負担が軽減されます(逆にしつけができていないと、良くない行動を新入り犬が真似てしまい、しつけがより大変になることも)。
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犬にとってのデメリット
◆ストレスが増える
とくに社会化が不十分であったり、病気を患っていたり、高齢だったりするとストレスが心配されます。しかし、他の犬とも友好にコミュニケーションが取れる若い健康な犬であれば大きな問題ではありません。
飼い主にとってのデメリット
◆出費が倍増
頭数が増えればそれだけ出費も増えます。年間にかかる食費、医療費、トリミングなどの費用を事前に概算しておきましょう。
◆時間も労力も倍増
新しい犬のお世話のために、かかる時間も労力も倍になります。場合によっては、先住犬が今までできていたことができなくなって、しつけ直さなければならないことも。愛情を注ぐ時間も今までの倍必要になってくるのです。
◆新入り用の部屋をつくる必要があることも
先住犬とどうしても仲良くなれなかった場合は、2頭が接触しないように別々の部屋に分けて飼わなければなりません。そのため新入り用の部屋を用意する必要があります。
多頭飼いを決断する前に確認すべきこと
犬のサイズ
◆同じくらいのサイズの場合
パワーや運動量に差がないのでケガや散歩時のコントロールが楽にできます。
◆サイズに大きな差がある場合
例えば先住が超小型犬で、新入りが大型犬であれば、ふつうに遊んでいても先住犬が骨折したり、甘噛みでもときには負傷したりすることがあります。とくに大型犬の子犬は、やんちゃでまだ加減もわからないため注意が必要です。また歩幅も異なるので、別々に散歩するか、大型犬の歩幅をコントロールしなければなりません。
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性別
相性のよい組み合わせはメス同士とされています。反対にオス同士(とくに未去勢の場合)は争いを起こすリスクが高く、もし先住犬がオスであれば、2頭目はメスがおすすめです。ただしオス、メスで飼う場合、繁殖を望まないなら必ず去勢・避妊を行いましょう。
年齢
先住犬が高齢だと、新入りに対してとくに強いストレスを感じます。多頭飼いを考えるならば、先住犬がシニアになる前に迎えるようにしましょう。犬の場合、小型犬で10才、大型犬で7才くらいが目安ですが、それより若くても視力や聴力が弱っていたり、日常生活をのんびり過ごすようになっていたりすれば、多頭飼いには適さないと考えられます。
先住犬が多頭飼いに向いているか
<多頭飼いに向かない先住犬の性格>
◇ストレスが溜まりやすい
◇トイレや無駄吠えなどの基本的なしつけができていない
◇過度に甘えん坊な性格である
◇他の犬に対して攻撃的(同じ空間に知らない犬がいると落ち着かなくなる)
※新しい候補犬に必ず先住犬を合わせて確認する
ペットショップやブリーダーのもとに先住犬を一緒に連れて行き、反応を見てみましょう。保護犬の里親になる場合は面会に連れて行き、トライアル期間も使って先住犬との相性をみましょう(犬を同伴できないケースもあるので必ず事前に確認しましょう)。
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迎え入れにあたっての準備物や手順
◆準備物一覧
◇ケージもしくはクレート(プラスチックケース)頭数分
◇ベッド頭数分
◇トイレ頭数分
◇お水・ご飯用の食器頭数分
※新入り犬のワクチン接種が終わっていない場合は、終わるまで互いに別々の空間で過ごす必要があります。
◆引き合わせの手順(新入り犬が子犬の場合)
1.子犬をケージに入れたあと、先住犬は飼い主の横でオスワリをさせて落ち着かせる。
2.距離を十分に保ったままケージ越しに引き合わせる。
3.ケンカが始まる様子がなければ、先住犬を子犬の近くまで誘導し、ケージ越しに互いに挨拶。
4.大丈夫な様子であれば、子犬をケージから出して飼い主が抱き上げ、先住犬に子犬の匂いを嗅がせる。
5.先住犬が落ち着いていれば飼い主の監視下で遊ばせ、その時におやつを与えれば「仲良く一緒にいたらおやつがもらえる」と思わせることができます(ただし、どちらかがおやつに強い執着心があるとかえって争いの種になる場合も)。
日常生活における注意点やコツ
愛情
つい新入り犬にばかり目がいってしまいますが、先住犬にも新入り犬にもバランスよく愛情をかけ、互いにやきもちをやいたり、ストレスを感じさせたりしないよう配慮しましょう。
しつけ
まずは新入り犬が環境に馴染むことが優先ですが、馴れてきたら新入り犬の見ている前で、日常生活のいろいろなことを先住犬に先にさせましょう。その時、先住犬をほめてあげることが大切です。新入り犬はそれを見習って日常生活のルールを学習することができます。
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散歩
新入り犬が人との散歩に慣れていない場合は、まずは1頭だけで散歩する練習をしてください。先住犬と一緒の散歩は、飼い主が新入り犬の散歩中の癖をきちんと把握でき、互いにコミュニケーションを取れるようになってから行いましょう。
慣れないうちはリードをそれぞれにつけ、飼い主が左右一本ずつ持つようにしてください。2頭用のY字リードは、飼い主も犬たちも散歩に慣れてからでないと歩きづらいかもしれません。
食事とおやつ
ケージの外でご飯を与える場合、食べる量をきちんと管理するためにも別々の食器で与えるようにしてください。また、他の犬のご飯を取ることがないよう、しっかり見ておく必要があります。
食事もおやつも、基本的には先住犬から与えるようにしますが、オスワリができたほうを先にしてもかまいません。ただし、一方の子が他方の食事やおやつを奪うそぶりを見せたら、食事はケージ内で別々に与え、おやつは与えずに片づけてしまいましょう。
災害時の備え
多頭飼いで困るのは、犬たちを一度になるべく早く移動させなくてはならないこと。どのように避難させるか、普段から家族で話し合い決めておく必要があります。ペットカートなどを用意しておけば、災害用備品と一緒に運ぶことも。
また、首輪やハーネスに犬鑑札はもちろん迷子札をつけ、いざというときのためにマイクロチップを装填しておきましょう。
飼い主さんに聞いてみました! 多頭飼いの楽しさと難しさ
多頭飼いしてみて、良かったと思うこと
ふとした時、2匹が一緒に遊んでいたり、寝ていたりする姿を見ると微笑ましく幸せな気分になります。兄のショコラ(写真左)は弟のあっぷぃ(写真右)が来てから兄らしく強くなりました。でも弟が離れるととても寂しくなります。弟は普段は温厚ですが兄が怒るとそれに加勢します。そんな姿を見ると、なんだか2匹の絆を感じられて、多頭飼いして良かったと思います。(30代 ママさん)
(左)チワワ ショコラくん(5才・♂)
(右)チワワ あっぷぃくん(3才・♂)
先住犬ブーシェ(写真左)はとてもマイペースで、2匹目ダナ(写真右)を迎え入れた時もやきもちをやくようなことはなく、ごく自然に受け入れてくれました。また、ダナはブーシェのことをとても信頼しており、お互いに特別な存在のようで、寄り添って寝ている姿を見ると、迎え入れて良かったと思います。(30代 ママさん)
(左)パグ ブーシェくん(4才・♂)
(右)スタッフォードシャー・ブル・テリア ダナちゃん(6才・♀)
多頭飼いの、こんなところが難しい
なんでも先住犬の真似をして覚えるのですが、困った行動も真似してしまうので大変です。お散歩を別々にしてみたり、1頭ずつ向き合う時間をつくったりするようにしています。(30代 ママさん)
(左)マルチーズ アメリちゃん(1才・♀)
(右)ヨークシャーテリア ミランくん(5才・♂)
しつけが少し大変です。「マテ」や「コイ」など1頭をしつけていると、みんなが反応してしまいます。そのためしつけをする時は、他の子はケージに入れ1頭ずつ行う必要があります。今では、名前を呼べば、その子だけ反応してくれるようになりました。(20代 ママさん)
(左)トイプードル テツくん(2才・♂)
(中央)トイプードル トワくん(8才・♂)
(右)トイプードル シュウくん(8才・♂)
犬を複数頭飼うということは、実はなかなか大変なのかもしれません。それでも一緒に並んで散歩をしたり、遊んだり、群れならではの楽しさが味わえます。飼い主がリーダーとして1頭1頭にしっかり目を配り、みんなが幸せになる多頭飼いにしましょう。