老舗旅館の看板コーギー
四季折々の美しい景色に彩られる身延山。癒しと信仰のパワースポットとして、また心の聖地として訪れる人々が絶えない。 そんな景色に溶け込むように静かに佇む、老舗旅館「田中屋」のとびっきり笑顔がかわいい看板犬コギさんをご紹介します!(コーギースタイル Vol.39より)
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700余年の歴史が息づくまほろばの里、身延山久遠寺の門前町にニューヒーローがいた!?
看板犬の登場は老舗旅館の新しい時代の幕開け!?
山梨県にある標高1153mの身延山は、およそ700年前に日蓮大聖人が晩年を過ごした霊山。身延山中腹に位置する身延山久遠寺は、春はしだれ桜、夏は茂る若葉、秋は紅葉、冬はうっすらと純白の雪化粧等々、四季折々の美しい景色に彩られる。広い境内には本堂や祖師堂が立ち並び、門下の厚い信仰を集め参拝客が後を絶たない。荘厳でありながら、あらゆる人々を受け入れる慈愛に満ちた名刹だ。
happy(ハッピー)
男の子 5才です^^
さわってもだいじょうぶ!
そして、身延山久遠寺の三門前からまっすぐ伸びた通りは、風情ある門前町になっている。そんな門前町の一角、三門に程近い場所に位置するのが老舗旅館「田中屋旅館」だ。今から370年前の江戸時代に創業して以来、心を込めたおもてなしと美味しい料理でくつろぎのひとときを提供することをモットーに多くの参詣客をお迎えして今日に至っているのである。
古き良き昭和の佇まいを今も残す和風建築の旅館「田中屋」に新しいメンバーが加わったのは5年前のこと。
新しいメンバーはコーギーのハッピー(オス・5歳)。愛嬌抜群で老若男女問わずフレンドリー、いつも笑みを絶やさないハッピーは気が付けば、旅館のスタッフの一員となりお客様をお出迎えしたり、店番をしたり、まさに旅館の看板犬として立派なお役目を果たす存在となっていった。
「ハッピーは教えたわけでもないのに自ら触っていいですよ、とお客様に背中を差し出すんです。お客様も大喜びしてくれます」と飼い主である若女将、田中佐智子さんはニッコリ。
ハッピーとの出会いは運命だったと言う。5年前のある日、当時9歳だった娘の美羽さんが犬を飼いたいと言い出した。佐智子さんは中学生の頃、実家で柴犬を飼っていたことから犬のいる生活はごく普通のことだったそう。
「ペットショップに3度通う中、気になっていた子犬がずっといるんです。その子犬に『うちの子になる?』と言ったら、その時は寝ていたはずなのにスッと目を開けたんです。もう、びっくり!」と佐智子さんは大笑い。
旅館の正面玄関が看板犬ハッピーの定位置。
お客様のお出迎えはもちろん、目の前の門前町の通りを歩く人たちにも愛嬌を振りまく人気者なのだ。
旅館の中庭には、太鼓橋のかかる池がある。
池を取り囲むように、手入れのされた草木が茂り、和の風情を醸し出している。
池には鯉の姿も。
しかし、11代目当主であるご主人の康介さんは飼うことをずっと反対していた。旅館という商売柄、生き物を飼うことに躊躇があったという。そこで、田中家の女性軍は必死に説得を繰り返し、無事、ハッピーは生後2ヶ月で田中屋に迎えられたのだ。
惜しみなく愛情を注がれ、すくすく成長していったハッピーだが、反対していた康介さんが一番、ハッピーの世話をするようになったそう。
旅館内を自由に歩くのを禁止されているハッピーの移動手段はカートなのです。
毎日、敷地内の自宅からカートに乗ってご出勤。
これって、何だか偉い人みたい!? ハッピーご満悦!!
玄関横に併設された土産処でも看板犬のお役目をこなすハッピーだが……。時々おさぼりすることも。
土産処の片隅に置かれたクレートの中でまったりするのが好きらしい。
「アッ、開かない!」扉を開けようと悪戦苦闘中。
見事、家族はもちろん、旅館スタッフのハートを射止めたハッピー。名前の通り、みんなをハッピーにしてくれたに違いない。
若女将の佐智子さんとハッピーは老舗旅館田中屋の顔。
受け継がれた老舗旅館を未来へ繋ぐため、今日も明るく笑顔いっぱいに過ごすのです。
ハッピーは田中屋の重責を担っている!?
ハッピーの大いなるハッピースマイルは身延山の新たなパワースポットかも!?
ハッピー、お仕事する
お出迎え&お見送り
身延駅まで無料送迎サービスを行っている田中屋。
ハッピーもしっかりお見送りします。「また来てね~♪」
スタッフの一員として車が走り出すまで見守るハッピーにお客様も感動!
お店番
地元名産のお菓子、ワイン、数珠、甲州印伝などお土産がズラリと勢揃いした、旅館内の土産処の店番はハッピーの役目。
その働きっぷりは……。「やる気ゼロでいつもまったりしてます(笑)」
できる男は上手に手を抜くんだよね。
天賦の才を発揮して365日フル回転です!
看板犬として働くハッピーは、刺激的で忙しい毎日を送っている。
「朝は7時半頃、散歩を済ませ、朝食を食べてから旅館に出勤します。と言ってもカートに乗って敷地内の自宅から館内の廊下を通って、正面玄関に行くだけですけどね」と、佐智子さんは笑った。
ハッピーのとびっきりの笑顔はどんな人も幸せにしてくれる魔法の笑顔。
この笑顔に会いたくてリピーターさんが続出するのもうなずける。日蓮大聖人もびっくり!?
正面玄関の一角がハッピーの定位置。玄関の外に出てお客様のお出迎えやお見送りをしたり、時には土産処の店内を見回ったり、店員として愛嬌を振りまいたりと大忙し。休日になると近所の小学生たちがハッピー目当てに大勢遊びに来るため、そのお相手もしなくてはならないし……。けれど、気まぐれな一面もあり、ちょっとおさぼり坊主になってクレートの中で寝ていることもあるらしい。マイペースなハッピーの行動に田中屋スタッフ一同、大いに癒されているに違いない。
三門前から一直線に伸びた道沿いにある田中屋から、身延山久遠寺までのいつもの散歩コースに出発進行!
大好きな散歩に心躍るハッピーはソワソワ……。
ハッピーの楽しみは何といっても散歩。宗派の人たちや観光客が遠路はるばるやって来る身延山久遠寺を、三門から登り1周するのがハッピーの散歩コース。なんとも贅沢なコースだ。
「三門前で必ず手を合わせて、なむなむ~と言うと、ハッピーは正面を向いてきちんとオスワリして待っています。不思議なことにお寺の階段や境内では勝手な振る舞いを決してしないのには感心しますね」と、佐智子さん。
涅槃に続くと言われている287段の菩提梯の急な階段を軽やかに登るハッピー。健康でいつもご機嫌でいられるのは毎日、参詣散歩するおかげかもしれないね!
「犬を飼うのははじめてだったんですが、こんなにかわいいとは思いませんでした。世話をするのは大変ですが、それもまた楽しみの一つです」と、ご主人の康介さんは微笑んだ。
三門をくぐる前に必ず手を合わせる佐智子さん。
ハッピーも姿勢を正してまっすぐ前を見て微動だにしない。
毎日の習慣はハッピーにもしっかり伝わっているのです。
身延山久遠寺では毎年春から夏の3ヶ月間、門下の人たちのために三門から身延山山頂まで徒歩で往復5時間の修業期間を設けているのだそう。
「この期間の週末は、旅館は宿坊になり大忙しの日々が続きます。多くのお客様に出会えるのでハッピーはもう、ニッコニコです」と佐智子さん。
都会から嫁いできた佐智子さんは、旅館の仕事や地方の生活に戸惑うことも多かったという。しかし、そんな環境にも慣れ、今では若女将として旅館を切り盛りするようになった。
三門から菩提梯、男坂、身延山久遠寺境内をぐるりと回って家に戻るコースがハッピー流散歩の定番。
急な階段、山道……。
かなりハードな散歩も涼しい顔で、お茶の子さいさい!
ハッピーの屈託ない笑顔や裏表のない明るさも、佐智子さんの大きな励みになったことは言うまでもない。
「ハッピーに会いたくて来てくださるお客様や、ハッピーにお土産持参のリピーターさんもいて多くの人たちと繋がっていくことに感謝しています」
身延山久遠寺への参詣や、身延山のハイキングなどにもぴったりの「田中屋旅館」。今日もハッピーはその名の通り、お客様を幸せにしている。
三門を抜け、菩提梯と呼ばれる287段の苔むした急な階段を上ると身延山久遠寺。
いとも簡単に軽やかに上っていくハッピーは由緒正しいお寺の申し子のよう。
取材協力:旅館 田中屋
山梨県南巨摩郡身延町身延3660
☎︎ 0556-62-1035
http://www.minobu-tanakaya.com/
部屋は大小合わせて16室。身延の旬味が堪能できる料理とラジウム温泉のお風呂でくつろぎのひとときを満喫できる。ペット同伴不可。
Text:Masako Komuro Photos:Miharu Saitoh