MY♡DOG
【DOG's TALE⑤】私と犬とアート 第1回

【DOG's TALE⑤】私と犬とアート 第1回

(MY♡DOG Winter 2019-20 Vol.1より)

  • サムネイル: MY♡DOG編集部
  • 更新日:

「とこしえの時間」へいざなう犬

愛犬の名前は「とこしえ」。サンシャインホワイトといわれる真っ白で、毛ぶきのよいマルチーズ、オス、12才、沖縄生まれ、鎌倉在住。大地の芸術祭・越後妻有(つまり)アートトリエンナーレにて知られる新潟県は十日町にて出逢いました。

その頃、同じく芸術祭の参加アーティストのおひとり草間彌生(くさまやよい)さんが「愛とこしえ(永遠)」を謳(うた)われていたようで、よく周囲の方々より、「草間さんは愛とこしえ、菊池さんは犬とこしえ」と笑われていました。「とこしえ」という名前は、もちろん、永遠、ずっと一緒に……という意味もありましたが、本当は私の両親の名前の文字をパズルしたところ、たまたま「とこしえ」になったからなのです。

作品制作の合間、とこしえと海へ。

作品制作の合間、とこしえと海へ。
思い出の一枚

とこしえは他の犬たちと戯れることなく、いつもひとりでいるところが、なんとなく自分自身と重なったことを今でも憶(おぼ)えています。芸術祭の関係もあり、とこしえも一緒に集落にて過ごした時期があり、世にいうところのマルチーズというよりも、のびのび自然派だったような気がします。

田んぼに落ちて、ドロドロになり、別の犬のようになったこと。秋の枯野に入り込み、全身種だらけになり、結果丸刈りならざるを得なくなったこと。雪の中が好きなのはよいのですが、真っ白同士で見つけにくく集落内迷子になったこと。慌てて鮮やかな色のオーバーコートを着せたこと。季節の海で思いっきり走ったこと。お外から帰るたびにお風呂直行にて洗うこと。ドライブが大好きなこと…… 賢くワガママ、どこか頑張り屋さんでかわいらしいところは、12年たった今でも、驚きや笑いはもちろん、温もり、安らぎ…… 新鮮で幸せな関係を与え続けてくれています。

作品「こころの花~あの頃へ」。

作品「こころの花~あの頃へ」。
これまでの日本のアートシーンにはなかったセンセーショナルな存在。記憶とともに今なおファンが多い

実は、随分前ではありますが、ある衝撃的な出来事から私は言葉が上手(うま)く出なくなった時期がありました。完全なる失語とまではいかなくとも……。アーティストすべてがということではなく、私の場合は極めて孤独な性質です。華やかさをたたえてはいただくのですが、猛烈な起伏も、抱えきれないほどの、もて余すほどの感情さえもあります。

でも、とこしえは、いかなる場合においても、それらの感情をも一緒に「とこしえの時間」へ私を連れていってくれるかのようです。人間の「言葉」こそ話しませんが解(わか)る、伝わるのですね。そうとらえると、「言葉」ってなんでしょう。その存在に救われていることだけは、確かなこと、です。これって、アートな関係なのかもしれませんね。

――――――――――――――――――
<PR>

volvo


<PR>
――――――――――――――――――

プロフィール

菊池 歩
芸術家。越後妻有アートトリエンナーレにて「こころの花~あの頃へ」を発表、代表作誕生。芸術家として、国内で初めて自治体の総合政策で起用される。著書に『タレル・デ・マリア』(グッドブックス)がある。

文=菊池 歩
構成/小松﨑裕夏

内容について報告する