【猫びより】【ウチのコへんてこ自慢】ひと目見たら忘れられない歌舞伎顔の「カブキ」くん(辰巳出版)
外見と内面のギャップにやられて心を掴まれてしまうのは、人間相手だけに限らない。この、歌舞伎の隈取(くまどり)を施したような強面(こわもて)の猫、カブキくん。性格はめちゃめちゃシャイなのだという。(猫びより 2020年1月号 Vol.109より)
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「今日はカブキ、顔を見せてくれるかな。2階の自室にこもって、家族でさえもあまり姿を見られないんですよ(笑)」
奥様の海江田恵さん(38歳)が教えてくれると、ご主人の悦誠(よしのぶ)さん(36歳)が「朝夕の1日に2回だけ、カブキは1階のリビングに降りてくるんです。それが『ゴハンくれ』の合図。伝え終わるとすぐに2階の自室に戻って、僕たちがゴハンを入れて持って来るのを待っています」。カブキくん、強気な顔をして相当な内気っぷりである。
「最初に顔を見たとき、衝撃を受けました(笑)。本人は普通にしているだけなのでしょうが、『歌舞伎の見得を切ってるみたい』とよく言われます」
「この顔に、ひと目惚れしました」
カブキ、雑種、オス、推定5歳。宮崎市の保護猫カフェ「うたたね」の裏に捨てられていた成猫6匹のうちの1匹だという。檻に1~3歳の成猫6匹が入れられていたのを、経営者の橋本智子さんが保護。手を尽くして世話をし、猫カフェデビューを果たすことはできた。とはいえ警戒心が強く、布製のものに粗相をしてしまうこともあった。里親が見つかるか心配されたが、スタッフが「顔が歌舞伎役者のように見える」と、「カブキ」と命名。するとSNSで一躍、人気者になっていった。カブキの個性的な顔は人の心を掴むチャームポイントだったのだ。
「『にらみ顔が素敵』と言われますが、にらんでいるのではありません。心優しき猫なんです」
恵さんは「私も『うたたね』のフェイスブックでカブキの顔を見て、すぐに惹かれました。怖い顔つきなのに、とてもシャイ。気になって、娘の菫(すみれ・9歳)と一緒に会いに行ったんです」。菫ちゃんも「なんかカワイイね」と言い、母娘の心を掴んだカブキは、海江田家に迎えられることになった。
カブキには「面会方式」を!
「シャイだとはいっても、我が家に慣れてくれば大丈夫だと、最初はそんなに心配していませんでした」。しかし、実家にも猫がいて猫との暮らしを知っている恵さんの想像を、カブキは遥かに超えていた。
「狭い所に引きこもって出てこない日が続きました。噛んだり引っ掻いたりはしないのですが、シャーシャーと鳴き続け、抱っこはおろか体にも触れさせません。いろいろ考えた末、将来2人目の子ども部屋にしようと思っていた部屋をカブキに開放し、『カブキ部屋』にしたんです」
個性の違う2匹が、海江田家にうるおいをもたらす
家族のいるリビングにカブキがやって来るのを待つのではなく、家族がカブキ部屋に会いに行く「面会方式」。猫カフェでの生活環境を変えないほうがよいと考えたからだ。
「無理をせず、カブキのペースで少しずつ慣れてくれればいいですね。カワイイ我が家の宝物なのですから!」
「イクニャン」ぶりを発揮
カブキ部屋は8畳の洋間。キャットタワーもトイレも設置し、隠れる場所も作って自由にさせると、カブキは少しずつ環境に慣れてきた。
さらに海江田さんは、猫の仲間がいれば心がほぐれるかと考え、半年後、保護猫譲渡会で出会ったオスの子猫、文太を新たに迎えた。猫カフェで、きょうだい猫をはじめいろいろな猫とうまく暮らしていたカブキの気持ちになって考えた策だ。
予想どおり、子猫がやって来るとカブキは興味を抱いた。
「ちらっと文太を見たとたん、『あ、かわいいヤツが来た』と感じたようです」。
今は亡き文太が、臆病なカブキの心をほぐした
けれども文太は家に迎えた直後の検査で、なんと猫白血病にかかっていることがわかった。感染リスクがあるのでカブキと一緒には育てられない。そこで、家族が見守る中、カブキ部屋で1日10分だけ2匹を会わせ、ふれあいの時間を作った。
束の間の面会時間。カブキは文太に寄り添い、文太もカブキを慕った。カブキに「父性」ともいえるやわらかい感情が生まれたようだ。
カブキの愛と家族の世話を受けながらも、残念なことに文太はその後息を引き取る。文太がいなくなると、カブキは大声で夜鳴きをした。「カブキはずっと文太を心で追い、見守っていたんですね」
猫も人間も、家族は少しずつ成長していく
文太が亡くなって数週間後、海江田さん宅に第二子の長男・義経くんが生まれた。同じ月にひとつの命が消え、ひとつの命が誕生。海江田家は変化のときを迎えた。
しばらくたつと、カブキにも変化が現れた。「家族を目で追い、気が向いたら階段を降りてくるようになりました。私たちがちょっとでも反応すると、自分の部屋に猛ダッシュで戻っちゃうのですが、それでも大きな変化です!」
1歳の義経くんは、カブキにとっては見守るべき存在?
カブキは文太のときと同様、幼子の義経くんに興味があるらしく、「くんくん匂いを嗅ぐこともあります。義経はまだ1歳なのでカブキにかまい過ぎてしまうこともあるのですが、カブキは『しょうがないな』といった顔をしています(笑)」。
また、縁あって3匹目の猫、サンズもやってきた。まだ子猫のサンズはやんちゃ真っ盛りだが、カブキはごく自然に、「父」のように受け入れている。「カブキは人見知りですが『猫見知り』ではないんです」。
子猫のサンズは無邪気に愛嬌を振りまく
やっぱりカブキ、心優しきイクニャンなのだろう。
カブキと新しい家族のサンズ、成長記録はInstagramでも人気(写真提供:海江田恵)
パパのことが好き!
文太もサンズもオス、義経くんは男の子。あれ? カブキは男の子好き?
「そういえば、実家の猫を預かることもあって、その猫ともカブキはうまくやっていますが、やっぱりオスですね……」。恵さんが首をひねると、ご主人の悦誠さんが「家族の中でカブキを抱っこできるのは、僕だけです。男の僕が、いちばんカブキに好かれていますね」と胸を張る。
カブキと悦誠さん、男同士、通じるものがあるのだろうか
「じつは夫は犬派で、猫には興味がなかったんです。でもカブキが夫に最もなつくので……」と恵さんが言うと、「今では完全に猫派です!」と悦誠さん。カブキの魅力が悦誠さんをすっかり猫派に変えてしまったのだ。
「これからも、家族の成長とともに猫と人間の関係性も変わっていくんでしょうね。私はカブキがもう少し慣れて、お膝の上に乗ってきてくれるのが夢です」と恵さんが笑うと、悦誠さんは、「僕はもう少し高度に、カブキと添い寝をするのが夢かな」。
カブキくん、女性陣にももっと近づいてほしいな
あせらず長い目で大らかにカブキの成長を見守るご夫婦の愛情は、子育てと同じく包容力たっぷりだ。
ご主人と奥様それぞれの「夢」、カブキくん、いつか叶えてあげてね。
個性的なルックスから、猫グッズなどのキャラクターにもなっている
Instagram:kabuki2929
文・鈴木美紀 写真・芳澤ルミ子