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【DOG's TALE④】犬と歩けば 第3回

【DOG's TALE④】犬と歩けば 第3回

文=野田知佑(MY♡DOG Summer 2020 Vol.3より)

  • サムネイル: MY♡DOG編集部
  • 更新日:

犬と下るユーコン川

犬を連れて川を旅するのは楽しい。
朝、テントを出ると、犬が駆け寄ってくる。

清冽(せいれつ)な空気の中で焚火(たきび)をおこし、コーヒーを淹れる。火の前で犬とゆっくりくつろぐ。霧が立ちこめた川の向こうから鳥の声が聞こえる。朝食をすませ、テントを畳んで、犬をカヌーに乗せて出発。夏の陽光を浴びながら、のんびりと川を下っていく。

カナダからアラスカのベーリング海まで荒野を流れるユーコン川を、二十数回カヌーで下った。犬は旅の最もよき相棒だ。

荒野の川旅は犬にもおもしろいようだ。カヌーのデッキに前脚をかけ、遠くの山や空をじっと見つめる。フネの上が退屈になると、川に飛びこんで岸に泳ぎ着き、カヌーと並走する。途中で鳥の巣を見つけ、卵を食べて母鳥に頭を突(つつ)かれて戻ってくる。ぼくが魚を釣ると、犬は頭をもらえるので興味津々だ。

後方から先住民の男がカヌーでやってきた。先住民はあまり犬をかわいがらない。「俺の家に寄って行けよ」と男がいった。フネを並べてしばらく漕ぐと集落が見えた。ぼくは彼の家でコーヒーをごちそうになった。

彼がいった。「どのくらいの旅だ?」「2カ月の予定で下っている」「キャンプをしていたらクマが出てくるだろう」「ああ。昨夜出てきて、犬とけんかをしたな。ライフルを撃って追い払ったけど」

男は別れ際、ムースの肉を1キロほどくれた。このところ魚ばかり食べていたのでありがたかった。村の売店で米を買い、再び漕ぎだした。

川の上をさわやかな風が吹く。ときどき向かい風にあおられたり、冷たい雨に打たれたりして相棒と顔を見合せた。岸にフネを上げてキャンプをし、ムースの肉を焼いて犬と分け合った。

2週間後、あるキャンプ地でカメラマンと合流した。火を囲んで積もる話をする。翌朝、出発しようと岸へ行くと、彼のカヌーを繋いでいる縄が噛み切られ、フネが流されていた。犬の仕業(しわざ)だ。犬もふたりだけの旅を心から楽しんでいたのだ。

犬と下るユーコン川

雲を眺めながらユーコンの荒野を漂う。ときどき風で岸が浸食され、サラサラと砂が落ちる音がする。犬は鼻先を掲げては、風の中の動物のニオイを嗅いでいた

野田知佑
カヌーイスト、ノンフィクション作家。1938年生まれ。1982年に『日本の川を旅する』で日本ノンフィクション賞新人賞を受賞。日本のツーリング・カヌーの先駆者。雑誌『BE-PAL』(小学館)などに寄稿。徳島の吉野川で開いている「川の学校」の校長を務める

構成/小松﨑裕夏

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