【み~んな元保護猫!】仕事のデキる しまや出版癒し課の社猫たち
東京・下町の「しまや出版」には「癒し課」なる課がある。在籍するのは、テレワーク組や見習い組も含めた8匹の保護猫たち。社猫として、本づくりを盛り上げながら、SNSで癒しを発信中だ。(猫びより 2020年9月号 Vol.113より)
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癒し課の始まり
荒川と隅田川にはさまれ、工場地から住宅地へと変わり始めた東京都足立区の一角。創業52年の同人誌専門の印刷所「しまや出版」が、元チョコレート工場だった現社屋に移転したのは20年前のことだった。
向かいの廃屋に棲みついていた2匹のノラは通い猫から事務所猫に。平成22年2月22日の「猫の日」に、小早川社長から正式社猫に採用された。配属は、新設の「癒し課」である。業務は、社員やお客さんを癒すだけでなく、SNSを通じて広く癒しを提供すること。社内で存分に愛され、のんびり自由にお過ごしください、という待遇だ。
会社玄関先に貼られた先代癒し課猫たちの写真
主任を相次いで務めた彼女たちが旅立った後は、9年前に保護されたユキが3代目主任となり、事務室の美貌のお局様としてみんなに愛されている。2年前には福島から茶白の子猫が、昨秋には台風15号被災の房総で瓦礫の山から這い出てきた茶トラの子猫が入社。社長宅のテレワーク組として、雄同士仲よしすぎる姿をSNSで提供中だ。
事務室のお局様、ユキ主任
一挙に4匹入社
そんな癒し課に、一挙に4匹もの新人が入社してきたのは、今年1月のこと。オスの茶トラ2匹に、メスのキジトラ2匹の、4きょうだいである。昨年10月に台風19号が房総に襲来した前夜、海辺の町でひとり暮らしをしている千都子さん(89歳)宅の2階で生まれた子たちだった。台風15号で被災して補修したブルーシートのすき間から、ノラ母さんが入り込み、2階の着物の上で出産したのだ。
2階で生まれていた4匹を最初に保護してくれた千都子さん(写真提供:しまや出版)
子猫たちは、地元の方に一時保護された。茶トラ2匹には希望者があったが、5月の結婚までは引き取れないとのこと。それを聞いた小早川さんが、2匹は一時預かりとして、4匹みんな引き受けることを決めたのだった。
4きょうだいで、すくすく育った(写真提供:しまや出版)
社員たちは、子猫4匹入社を喜んだのなんの。3階の打ち合わせ室は遊具完備の保育室となった。ユキ主任は、この癒し課分室まで階段を上って、ガラス越し視察にたびたびやってきた。きょうだいの母猫は、避妊手術をすませ、千都子さんの家によく遊びにくるという。
癒し課、人気を呼ぶ
本社勤務の猫たちの面倒は、社員みんなで見る。ローテーションを組み、休日にも誰かが喜んで出社している。
昼休みには、入れ代わり立ち代わり猫たちの元へ社員たちがやってくる。始業時刻よりずっと早く出社して猫と遊ぶ社員、猫といっしょに陽だまりで昼寝する社員、終業後にひとしきり猫と遊んでから帰宅する社員もいる。
昼休みに猫と遊ぶ印刷部社員たち
4きょうだいが加わったことで、「しまや出版に癒し課あり」はいっそう知られることに。Twitterで社猫たちの写真や動画が発信されるごとに、リツイート数もぐんぐん増えていった。
「こんな会社があるなんて」
「めちゃめちゃ癒される」
「いつか自分の本を作る時は、社猫のいるしまやさんに決めた!」
今年2月。4匹揃って、出社をお出迎え(写真提供:しまや出版)
4きょうだいは、社員やファンたちに見守られて成長。5月、茶トラ兄弟が新婚家庭に転職していった。
4きょうだい、感動の再会?
取材したのは、転職しただいず・きなこ兄弟がひと月半ぶりに一日里帰りをした日だった。社をあげて「感動のきょうだい再会」を待ち構えていたのだが、しるこ・あずき姉妹は、懐かしげに匂いを嗅ぎにきたお兄ちゃんたちを「シャー!」と威嚇。兄弟は活版活字棚の裏に隠れてしまった。
打ち合わせの場にも同席のあずきちゃん
昼休みに3階に集まった社員たちは、兄弟の成長ぶりに目を細めつつ、猫じゃらし片手に、ここでの日々を思い出してもらおうと懸命。その甲斐あって、やがて以前通りにくつろぐ4きょうだいだった。
きょうだい勢ぞろいの図は、しまや出版のみんなにとってまた格別の喜びだった。きなこくんは、もらわれていったばかりの時に脱走騒ぎを起こしていたのだ。懸命の捜索に、SNSでの情報提供呼びかけの末、近くに潜んでいるのを無事保護できた。
里帰りした日のきなこくん。久しぶりに活版活字棚でかくれんぼ
「あの時は、『猫を探しています』というツイートに9000以上ものリツイートがあり、みなさんが捜索に協力してくださいました。癒し課はこんなに注目されていたんだ、とびっくりしました」と、小早川さん。
またまた新入りが!
じつは、取材日、社長室に手招きされると……。大きなケージの中には、4日前に保護したばかりという子猫たちがいるではないか。
「住んでいるアパート脇でノラ母さんが子育てをしている」という相談を社員から受けた小早川さん。子育てには厳しい現場なので、子猫の保護と母猫の避妊手術を決断。三毛2匹と黒白1匹の3姉妹は、ワクチンなどが済んだら、しるこ・あずき先輩の社猫教育下に置かれる。「三毛の1匹には、もう譲渡希望があるんです。器量よしばかりだから、みんなもらわれていっちゃうかな」と、小早川さんは今からさびしそう。
保護して4日目の3姉妹
というわけで、7月現在の癒し課には8匹が在籍中だ。在宅組のきなりとちくわ。本社2階にはユキ。3階にはしるこ・あずきに、いずれ転職予定の見習い3匹。出版の相談や打ち合わせに訪れる客は、まず、玄関で「猫、大丈夫ですか?」と訊かれることになる。
「皆さん、猫が好きですねえ。お待たせする時間があっても、猫と楽しそうに遊んでいただいてます」と、小早川さん。打ち合わせ中に、机の上に広げた資料の上にゴロンと寝転んだり、膝の上にポンと乗ってきたり。笑顔で打ち合わせが進む。
テレワーク組のきなりとちくわ(写真提供:しまや出版)
コロナ禍の外出自粛中も、ダウンロード自由の「3密予防ポスター」のモデルになったり、Instagramを開設したりと、業務に励んだ社猫たちだった。
「コロナ禍でどの業界もたいへんな今ですが、こんな時だからこそ、猫たちに元気をもらい、じっくりと『世界にたった一つの自分の本』作りのお手伝いができたら」と小早川さんは微笑んで言う。
「任せて。そのくらいの恩返しはさせて」と、癒し課の猫たちが言っているような。
株式会社しまや出版
東京都足立区宮城2-10-12
TEL 03-5959-4320
https://www.shimaya.net
Instagram:shimaya_iyashi
Twitter:@ShimayaTokyo
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価格:1,500円+税
※詳細はHPにて
文・写真 佐竹茉莉子