Shi-Ba
【Shi-Ba】無垢の木の家具と小物のぬくもり【辰巳出版】

【Shi-Ba】無垢の木の家具と小物のぬくもり【辰巳出版】

使い捨てがもはや当たり前になった感のある昨今。丁寧に作られたお気に入りを身の回りに少し置き、それを一生大事に使うのも素敵なこと。本誌読者犬でもある杢が、素敵な木の道具の世界を紹介。(Shi-Ba 2019年3月号 Vol.104より)

  • サムネイル: Shi-Ba編集部
  • 更新日:

杢はお店の木工作品を一度もかじったことがない優秀な看板犬

古き良き武蔵野の面影が残るこの地に、木工作家の前田充さんと奥様の由美さんが居を構えたのは9年前のことだ。

店内には穏やかな時間が流れる

店内には穏やかな時間が流れる

庭の木で羽根を休める小鳥のさえずり、石油ストーブのじんわりした温かさ、そして無垢の木の作品に囲まれていると、心がほころぶ。杢ったら、充さんの腕の中でもう寝ちゃったね。

つぶらな瞳が愛らしい杢(メス・推定7歳)は、前田さんの木工作品を展示するお店の看板娘。実は数年前に本誌に読者犬として登場したこともある。杢という珍しい名前を覚えている読者の方もいるかもしれない。

おとなしくて人懐っこい看板娘の杢によるおもてなしも楽しみ♪

おとなしくて人懐っこい看板娘の杢によるおもてなしも楽しみ♪

木工作家の前田充さんが心を込めて製作した作品たちと、つぶらな瞳の看板娘・杢が来客を出迎えてくれる。どこか懐かしい感じが漂う店内にいると、時間が経つのを忘れそうだ。

「無垢の木って落ち着くよ~♪」

「夫はずっと柴犬と暮らしたいと思っていたようで、まだ飼ってもいないのに柴犬の本を読んだりしていました。里親のサイトもずっと見ていましたら、ある日とぼけた顔の犬が出ていまして。譲渡会の日にちょうどスケジュールが空いたので、見に行ったんです。初めて会ったのに杢さんの方から寄ってきて、人懐っこいので看板犬になってもらうのにいいな〜と思いまして」

看板犬は抱っこが大好き

看板犬は抱っこが大好き

柴犬には珍しく抱っこが大好きだという杢。
「お客さんに抱っこされてウトウト寝ていることもあります」
甘えん坊め〜♥

当時を振り返る由美さん。こうして前田家の一員、かつ看板犬となったのが5年前の話。杢が2歳の時だ。
「杢という名前は自動的についた感じです」と充さん。

散歩コースにある畑でひと休み

散歩コースにある畑でひと休み

おがくず、落ち葉、米糠を混ぜ、時間をかけて発酵させた堆肥がおいしい野菜を作る。散歩の途中、野菜の直売所に立ち寄ることも。

なるべくしてなった木工家具 & 道具屋さんの看板犬。お店に展示してある作品をかじったことなど一度もない、優秀な社員でもあるのだ。

家具メーカーで学んだ技術と木への愛情を作品に込めて

えごま油やくるみ油で手入れすれば、木の家具や道具は長く使うことができるんです

子供の頃から木で何かを作る仕事をしたいと思っていた充さん。その夢を叶えるべく、最初は学校でデザインを勉強し、卒業後は家具メーカーに就職して設計から製作まで、家具作りのノウハウ学んだ。食器などの小物は独立後に作り始めたそう。

家具メーカーで学んだ技術と木への愛情を作品に込めて

クランプで木を固定し削っていく

クランプで固定した木を丁寧に削っていく。口触りがとても良いと評判のスプーンの場合、1日に10~15本ほど製作するそう。

おがくずは畑の肥料に

おがくずは畑の肥料に

工房のおがくず(大鋸屑=のこぎりで木材をひいた時に出る木屑)は近所の畑で肥料として活躍。

家具メーカーで学んだ技術と木への愛情を作品に込めて

約倍の厚さから削り込む

「下が安定していないと削りにくいので、この状態で先に中を削ってから角を落としていきます」

家具メーカーで学んだ技術と木への愛情を作品に込めて

種類、木目で表情も様々

濃い色はウォールナット、明るい色はチェリー。木の種類や木目の出方で1本ずつ表情が異なるのも面白い。

名前を入れて贈り物にも

名前を入れて贈り物にも

やや小ぶりな右の2本はお子さん用に購入する人も。名前を入れてプレゼントにするお客さんもいるそう。素敵!

美しく、そして使えば使うほど愛着がわく作品の数々は次頁で紹介するが、木の道具をずっと使い続けていくコツを伺うと、「天然の木の表情をそのまま生かしたいので、仕上げには植物性オイルを塗っています。特に食器は繰り返し洗うと少しずつオイルが抜けてくるので、えごま油やあまに油、くるみ油など、天然の植物性オイルを時々塗ってお手入れをすると、ツヤがよみがえり、ひび割れなども防ぐことができます。オイルが馴染んだら拭き取って1日置いてよく乾かしてください。使い続けるうちにできるシミや傷も、いい味として楽しんでもらえると嬉しいですね」

使えば使うほど味が出る!

使えば使うほど味が出る!

前田家で5年間愛用しているカレー皿。月に1回くらいオイルで磨くことで、ひび割れせず、しかもより味わい深い色になる。

ちなみに、植物性オイルには、乾きやすい油と乾きにくい油の2種類がある。えごま油、あまに油やくるみ油は乾きやすい油。塗ると木にほどよく染み込み、乾いて固まるので耐久性が出るのでオススメ。ちなみにおなじみのオリーブ油は乾きにくい油なのだそう。
ご自宅にある木の家具や食器でもぜひお試しあれ。

お手入れは身近なものでできる

お手入れは身近なものでできる

えごま油やくるみ油、乾いた布やティッシュなどがあれば、お手入れは簡単にできるそう。ぜひやってみて。

オイルを塗って拭き取り、乾かす

オイルを塗って拭き取り、乾かす

表面にけばだちが目立つ場合はオイルを塗る前に#400~800程度の耐水ペーパーをかけるといいそう。オイルを塗ったら拭き取って乾かす。

椅子もいろいろ

椅子の製作期間はおよそ1ヶ月。大まかに言えば、材料を切る→乾燥→加工→組み立て→オイル塗布→乾燥→磨き→ワックスがけ→乾燥、の工程を経て完成するのだ。

お父さんが作った家具や道具を紹介するよ!

お父さんが作った家具や道具を紹介するよ!

ウォールナット材の丸脚のスツール。腰掛け用、小物を飾る台用、どちらにも○

ウォールナット材の丸脚のスツール。腰掛け用、小物を飾る台用、どちらにも○

チェリー材の角脚のスツール。「貫き」あり(「貫き」の説明は下記参照)

チェリー材の角脚のスツール。「貫き」あり(「貫き」の説明は下記参照)

椅子もいろいろ

貫きは強度を上げるための丁寧なひと工夫。

ナラ材の丸脚のスツール「貫き」あり。同じスツールでも色と微妙なデザインの変化で様々な味わいが出る。

ナラ材の丸脚のスツール「貫き」あり。同じスツールでも色と微妙なデザインの変化で様々な味わいが出る。

置いた時に畳に足がめり込まず、滑らせて移動できるよう「貫き」が施されている。

置いた時に畳に足がめり込まず、滑らせて移動できるよう「貫き」が施されている。

布張りの座面は椅子全体の重さが軽くなるのが特徴。布は張替えもしてくれる。

布張りの座面は椅子全体の重さが軽くなるのが特徴。布は張替えもしてくれる。

学校の椅子をイメージして製作。飽きがこないシンプルなデザインが素敵だ。

学校の椅子をイメージして製作。飽きがこないシンプルなデザインが素敵だ。

出来立ての「肘掛のある椅子」はチェリー材。時間が経つとさらに深い色に。

出来立ての「肘掛のある椅子」はチェリー材。時間が経つとさらに深い色に。

10年使用しているチェリー材の椅子。上の椅子と比べると色の変化がよくわかる。

10年使用しているチェリー材の椅子。上の椅子と比べると色の変化がよくわかる。

椅子もいろいろ

座面の裏に作られた溝は「かきとり」。
指が入って持ち運びしやすいようにしている。

椅子もいろいろ

釘を使わずくさびを使って組み立てた椅子。
くさびは中で広がり抜けない効果がある。

椅子もいろいろ

微妙な凹凸をつけることで、滑りやすさを少なくした座面。くさびにも味わいが。

道具もいろいろ

日々よく使う食器などは、1ヶ月に1回くらいお手入れするのがオススメだそう。使う人のことを考えた道具に囲まれて、日々の暮らしを送ることって、しみじみと嬉しいもの。

コースターの面には滑りにくい加工が施されている。

コースターの面には滑りにくい加工が施されている。

左はくるみ、右はチェリーのお盆。自然な木目も素敵なアートになる。

左はくるみ、右はチェリーのお盆。自然な木目も素敵なアートになる。

くるみ材の茶さじ。手にしっくりなじみ、とても使いやすそう。

くるみ材の茶さじ。手にしっくりなじみ、とても使いやすそう。

バターやクリームチーズを塗る時に重宝するバターナイフ。

バターやクリームチーズを塗る時に重宝するバターナイフ。

ジャムスプーンはジャムが滑り落ちないように、面に波型が施してある。

ジャムスプーンはジャムが滑り落ちないように、面に波型が施してある。

イベントで大人気のお米カップ。写真はウォールナットとチェリー。

イベントで大人気のお米カップ。写真はウォールナットとチェリー。

角盆の大、小と箸置き。※箸は作品ではなく、前田家の私物。

角盆の大、小と箸置き。
※箸は作品ではなく、前田家の私物。

無垢の木の食器は、和洋中、どんな料理にもしっくりなじむのが不思議だ。

無垢の木の食器は、和洋中、どんな料理にもしっくりなじむのが不思議だ。

こんなバターケースが家にあったら、毎食、パンにしちゃうかもね。

こんなバターケースが家にあったら、毎食、パンにしちゃうかもね。

ミルクピッチャーやドレッシング入れとしても活躍しそうな片口。

ミルクピッチャーやドレッシング入れとしても活躍しそうな片口。

チェリーのカレー皿とスプーン。皿の縁に角度がついているので最後まで食べやすい。パスタ皿としても、親子丼などの器にも。

チェリーのカレー皿とスプーン。皿の縁に角度がついているので最後まで食べやすい。パスタ皿としても、親子丼などの器にも。

カッティングボード2種。パンを切ってそのまま食卓に置けばお皿がわりにもなるオシャレなデザイン。

カッティングボード2種。パンを切ってそのまま食卓に置けばお皿がわりにもなるオシャレなデザイン。

小盆の大、中、小。お皿、茶托、などいろいろな用途に使えるのが嬉しい。

小盆の大、中、小。お皿、茶托、などいろいろな用途に使えるのが嬉しい。

道具もいろいろ

「プラスチックは味気ないかなと思って作りました。展示会などのイベントではいつも一番の人気ですね」というお米カップ。
誰かに見せるわけではないけれど、こんな存在感のあるお米カップを使うと、毎日の炊事も気分が変わりそう。

椅子もいろいろ

窓辺にさりげなく置かれたスツール三兄弟!?

道具もいろいろ

撮影の途中、由美さんが温かい麦茶をすすめてくれた。
お盆に目をやると、表面には柔らかい波型の目が刻まれている。器が滑らないようにと充さんが工夫したもの。

道具もいろいろ

部屋に合わせたサイズの家具も作ってくれる。写真はデスクと椅子。デスクの上にあるのは一輪挿し。
「椅子は必ず座って試してから買うのがいいと思います。体型などで背もたれの感じ方なども変わりますので」
よく展示会で靴を履いたまま試し座りした椅子が、室内で使ってみると高さがしっくりこない、ということもある。
ki-to-teでは購入した家具の高さ調整なども、近隣であれば有料で行ってくれる。

道具もいろいろ

初期の頃から製作しているコーヒーメジャーも人気の一品。

道具もいろいろ

オーダーメイド家具も人気。こんな家具に囲まれて暮らしてみたいな。

高速道路のSAのドッグランは結構行きつけ。その理由は……

春と秋の展示会には看板娘の杢が車で一緒に全国を移動することも

ki-to-teが特に忙しくなるのは、春と秋。
「この時期はイベントが多いので、車で全国を回ります。杢を連れて行ける所には家族で一緒に出かけます。妻の実家が九州にあるので、その途中にある山口のイベントにも行ったことがあります」

高速道路のSAのドッグランは結構行きつけ。その理由は……

オヤツ、ゴハン 食べることに即反応

食いしん坊な杢。数少ない!? 友達の柴犬ココロのパパさんにオヤツをぐいぐいねだってるね。

ちなみに杢、車酔いは一切なし。長距離も全く問題なく、高速道路のSAのドッグランで遊ぶこともある。でも、由美さんいわく「基本的に一匹狼で犬は苦手」だそう。小型犬でさえドッグランにいると微妙な感じなんだとか。柴犬っぽいな。

高速道路のSAのドッグランは結構行きつけ。その理由は……

ココロも好きだけどやっぱりオヤツ

ちなみにこれはココロのパパを見つけた時の杢のアクション。オヤツめがけて一直線。
杢の食いしん坊ぶりに思わずみんなから笑みがこぼれる。

イベント会場に連れて行くと大人気だそうで、毎年訪れる場所でたまたま杢が不参加だったりすると、
「今年は杢ちゃん、来てないの?」とがっかりされてしまうことも。

春と秋の展示会には看板娘の杢が車で一緒に全国を移動することも

自転車に乗って街までお出かけ

災害対策としてネットで購入したキャリー。「最初は道ゆく人が振り返って恥ずかしかったです」

最後に、充さんにこれから作ってみたい作品について聞いてみた。
「いろいろ挑戦してみたいと思っていますが、まずは作品を展示する大きな収納棚を作りたいですね。今のものはアンティークショップから譲り受けたものなので。でも、どうしても自分たちが使うものは後回しになってしまいます」

春と秋の展示会には看板娘の杢が車で一緒に全国を移動することも

抱っこ犬として街では有名!?

プードルやチワワならよく見るけれど、柴でこのスタイルはなかなかレア。柴好きなら絶対に頭を撫でたくなっちゃうぞ〜。

また、食器や椅子の種類も増やしたいし、犬用の食器なども手がけてみたいと前から思っているそうなのだが、こんなエピソードも。
「私の実家のコーギーに試作品を作ったことがあるんですけど、そのコがやんちゃで。あげた途端に放り投げて割れてしまいまして」と由美さんが苦笑。
「お皿みたいだったしね。もう少しごっついのを作ればよかったね」と充さんもその時のことを思い出したのか、優しく微笑んで答える。近い将来、犬用の食器がラインナップに加わっているといいな。

春と秋の展示会には看板娘の杢が車で一緒に全国を移動することも

暖かくてウトウト、でも猫には厳しい!

ストーブの柔らかい暖かさについウトウト。でも庭に隣家の猫がやってくると、看板犬から番犬に早変わり。
元気よく吠えてみるのだ。

この春、そして秋は充さんの作品と一緒に杢が日本のどこかの街にやってくるかも。
お店のHPをチェックしていると、もしかしたら杢に会えるかもしれませんよ。

お店の前でキリッと記念撮影。実はオヤツに注目

お店の前でキリッと記念撮影。実はオヤツに注目

柴の絵が描かれた手描きの看板からもご夫妻の杢への愛情がうかがえた。
お店の前で凛々しく撮影。でも実はオヤツから目が離せない杢なのだった。

ki-to-te

ki-to-te


木工作家の前田充さんがデザインから製作まで、すべて一人で手がけた作品を販売している、無垢の木の家具と小物のお店。直売所の営業日には、看板娘の杢がフレンドリーに対応してくれるかも。
※下記の直売所の営業日は不定期なので、事前にHPで確認を。
住所:東京都国分寺市西町5-20-6
URL:http://www.ki-to-te.com/

Text:Mari Kusumoto
Photos:Etsu Moriyama

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