【猫びより】【みんなの推し猫】港で愛されるデッカイ顔の快男児 北国のケンジ(辰巳出版)
「オレの名前はケンジ。漁師の子。この浜を守るボス猫だべや」。頑張る時も頑張れない時もケンジのデッカイ顔を見て いると「大丈夫!」と大らかな気持ちになれる。そんなケンジがみんな大好きだよ。(猫びより 2021年1月号 Vol.115より)
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初めてその猫と会ったのは、2年前の冬だった。猫を探しあてもなく海岸線を歩いていると、漁の終わったひと気のない浜辺で丸々と太った猫が必死でメス猫を追いかけていた。
今日も1日がはじまるどー。両手に花で朝からご機嫌だべや
身の詰まった巨大な猫が雪の上をドスドスと勇ましく歩く姿。
それを見られただけでも、ここに来てよかった。そう思った。
気の無い様子のメス猫にバッシバシと猫パンチを繰り出されながらも、めげず動じず、細い目で微笑んでいるようにさえ見えるその顔が、バカボンのパパに見え、「それでいいのだ!」と私は猫にエールを送った。
それがケンジだった。
記念撮影。心もお顔もスマイルだべや
北海道のとある港町。昔からニシン漁が盛んな町だ。不思議な懐かしさを感じる小さな漁場の集落にケンジ(5歳♂)は、仲間たちと暮らす。漁に使う大切な仕事道具をネズミから守るため、猫は漁師さんにとってなくてはならない存在。
ケンジがここのボス猫に任命されたのは1年前。先代のボス猫、優等生の飛雄馬君が隠居することになり、一番身体が大きかったケンジにボスとして白羽の矢が立った。
オレのゴハン。昨日もニシン、今日もニシン。明日もニシンだべか
元々、ケンジは身体こそ大きかったが、無用な喧嘩はしないタイプ。
「喧嘩するより女の子を追いかけてる方が楽しいべや」
たとえ喧嘩を売られても、「謝っちゃった方が楽だべや」と負けるが勝ちを通してきた平和を愛する男だった。
それが、飛雄馬君の後ろ盾もあり、気がつけば「オ、オレがボスだべか!?」
寝てるんでない。瞑想の時間だべや
本猫も晴天の霹靂である。「お顔も体もでっかいし、仕方ないべさ」と、漁師さんも猫たちもみんなそう思っていたに違いない。決してコワモテではない、糸目ののほほん顔のケンジがボス猫となってしまった。
ボス猫になって1年。
その間に世界は大きく変わった。変わったはずなのに、浜に来ると何も変わらない自然とともに生きる猫と漁師さんの姿があった。
見上げれば、空とケンジ
デッカイお顔スリスリ
そして、ボスになってもケンジはケンジのままだった。
めげず動じず、メス猫にもモテず。どっしりと構えるオレ。
寝ているのか起きているのか分からない細い目がうっすら開いた。
「それでいいべや」
糸目の奥の瞳がそう語っていた。
雪ん子
文・写真 土肥美帆