猫びより
【猫びより】花墟(フラワーマーケット)と猫たち【from Hong Kong】(辰巳出版)

【猫びより】花墟(フラワーマーケット)と猫たち【from Hong Kong】(辰巳出版)

(猫びより 2021年1月号 Vol.115より)

  • サムネイル: 猫びより編集部
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九龍の中心に位置するMTR「太子(プリンスエドワード)」駅から、3分ほど歩くと「花墟道(フラワーマーケットロード)」がある。
約3百メートルの通りに、1955年花の卸売市場が移転し、一般の小売も開始した。その後、周辺に百件近くの花や植物関連の店が軒を連ねるフラワーマーケットに発展して、観光客にも人気のスポットとなった。

天気のいい休日は、大勢の人で賑わうフラワーマーケット

天気のいい休日は、大勢の人で賑わうフラワーマーケット

実は、ここは香港人にとってなくてはならない場所でもある。香港には、プレゼントとして花を贈る習慣があり、一年を通して花束を目にする機会が多い。バレンタインデー、母の日、大学の卒業式は定番中の定番である。誕生日、記念日、退職時など、映画みたいに恋人の職場に花束を送るというサプライズすら、決して珍しいことではない。また、旧正月に花を飾る風習もあり、縁起が良いとされる水仙や金柑を始め、胡蝶蘭、梅、菊などが年末の店先に所狭しと並び始めると、お正月準備の人々で大晦日の夜までごった返すのだ。

猫が自然に溶け込み、お客さんは猫がいることにさえ気づかない

猫が自然に溶け込み、お客さんは猫がいることにさえ気づかない

そんなフラワーマーケットで植物以上に訪れる人の癒しとなっているのが、大きな花瓶の間や、店先に積まれた箱、レジ机などで勝手気ままにまったりくつろぐ猫たちの姿だ。築65年余りの密集した建物は、ほとんどが古くネズミも多い。猫たちは、ここでは欠かせない存在なのだ。

花束に負けないよう毛繕いに励むケンケン

花束に負けないよう毛繕いに励むケンケン

「KenKen(ケンケン)」は10歳の女の子で、Facebookで3千人以上のファンを持ち、メディアでもよく紹介される人気の猫店長だ。お気に入りは店の隣にある学習塾の入口で、無防備に熟睡している姿が道行く人の心を和ませている。

ケンケンのお昼寝定位置は、いつも人だかり

ケンケンのお昼寝定位置は、いつも人だかり

店先で眠るかわいい姿でお客さんの足を止めさせてしまう「排骨(パイグワァッ)」は、実は飼い主べったりの甘えん坊で怖がりなので、むやみに触らないように注意書きがしてある。小柄な箱入り娘の「妹妹(ムイムイ)」は、レジ前の箱が定位置で、安眠妨害防止のために許可なく撮影することが禁止されている。などなど、個性豊かな猫たちが様々なお店の顔として活躍している。

店主が書いた張り紙の前で安心して寛ぐ排骨

店主が書いた張り紙の前で安心して寛ぐ排骨

現在、コロナ禍のフラワーマーケットは、自宅に花や植物を飾る人が増え、遠出のできない状況下、街中で気軽に散歩気分を味わえる憩いの場として新たな役目を果たしている。美しい花々や緑とともに、悠々自適に振舞う猫たちの姿も人々の憂いを忘れさせてくれるに違いない。

猫は自分にちょうどいい大きさをよく知っている

猫は自分にちょうどいい大きさをよく知っている

Tsukazaki Yuka
猫と香港在住のライター。広東語で通訳、翻訳、日本語教師などもこなす。著書に『香港の大スター☆クリームあにき』(辰巳出版)。

写真・文 塚碕由香

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