猫びより
【ネコ温泉】箱根強羅温泉・早雲閣

【ネコ温泉】箱根強羅温泉・早雲閣

(猫びより 2017年5月号 Vol.93より)

  • サムネイル: 猫びより編集部
  • 更新日:

登山電車とケーブルカー

箱根の猫に会いに行ってきた。小田原から箱根登山電車で箱根湯本へ。そこから標高541mの強羅駅までスイッチバック式の電車に乗り換える。箱根はやっぱりコレである。

塔ノ沢、大平台、宮ノ下、小湧谷……旅情溢れる駅をジグザグ状に登りながら、車窓の谷がだんだん深くなるのを眺めるうちに、強羅駅に到着。
そこから箱根登山ケーブルカーに乗り換えて、標高750mの終点早雲山駅までの200mを一気に上がっていく。降りると展望台があって、正面に箱根連山の山並、右手の遥か遠くには相模湾が見えた。

強羅花扇 早雲閣

強羅花扇 早雲閣

展望台の先に今日の目的地、早雲閣が見えた。うーん、これはまさに雲の上の宿だ。創業90年を迎える老舗だったが、2010年、手前の姉妹館・強羅花扇とともにリニューアルオープンした。老舗の格式はそのまま残した、いまも強羅の奥座敷的な存在だ。そして自家源泉の宿としては、箱根でいちばん高い場所にある。

チェシャ猫ミー

チェシャ猫ミー

玄関で置物状態。履物と並んで大きさも色も違和感なし

宿猫ミー(♀)は、玄関右側の事務所前に設置された寝床で寝ていた。いやじつは起きていたのだが、眼がほとんど眠ってるみたいに細い。なんだか「不思議の国のアリス」に出てくるチェシャ猫のような妖気が漂っている。

小さくてカワイイのに、どこか妖気ただよう不思議な猫ミー

小さくてカワイイのに、どこか妖気ただよう不思議な猫ミー

「もともとは野良猫だったんですが、代々の仲居にごはんをもらううちに棲みついたんです」という仲居頭の梶浦和枝さんは、たぶんミーのいちばんの理解者である。

いちばんの理解者、中居頭の梶浦さんに抱かれる

いちばんの理解者、中居頭の梶浦さんに抱かれる

ミーは14歳だから、梶浦さんが7年前に仲居としてここに来るよりずっと前からいたわけである。いまでは月に一度、梶浦さんがミーの体を洗ってやっている。

梶浦さんに月に一回お風呂に入れてもらう

梶浦さんに月に一回お風呂に入れてもらう

ロビーで丁寧な案内をスタッフに受ける。宿泊客には美しい器で、緑茶がふるまわれる。それをいただいているうちに、ミーが寝床から出て玄関に座って、外を見ている。

「気が向くと玄関を出て、近所を散歩してまた自分で自動ドアを開けて帰ってきます」

ベランダの定位置でお客さん待ち?

ベランダの定位置でお客さん待ち?

昼寝から目覚めた猫の運動時間、いわゆる“トワイライト散歩”の時間なんだろう。では、ぼくはぼくで、露天風呂にでも行くことにしよう。部屋に荷物を置き、浴衣を持ってお風呂を目指す。

源泉からじかに入れている露天風呂。旅の疲れが癒される

源泉からじかに入れている露天風呂。旅の疲れが癒される

源泉だから湯量は豊富。掛け流しのお湯の成分は、カルシウム、ナトリウム、マグネシウム、硫黄塩などがバランスよくミックスされている。湯船には湯の花もうっすら漂う温泉らしい温泉だった。はあ、あったまる。

夕食に出た、駿河湾で水揚げされた白魚

夕食に出た、駿河湾で水揚げされた白魚

そのあとはさて、夕食だ。箱根連山で採れる山菜や、相模湾から水揚げされる魚介がメニューに並んでいる。大きめの白魚、刺身の数々に舌鼓をうち、極め付きは、この宿自慢の飛騨牛のステーキ。ジューシーだった!

名物の飛騨牛はとてもジューシー

名物の飛騨牛はとてもジューシー

城主の見回り

食事のあとでミーを探しに行ってみると、玄関で宿泊客の子どもと遊んでいた。いや遊んでいるのは子どもで、ミーは悠然、泰然。慌てず騒がず、目は相変わらず糸のように細い。

翌朝、また玄関を出ていくミーを見つけた。あとをつけると、玄関脇の塀の間の給水管の上を器用に歩いて(猫だから当然か)、宿の裏側に回っていく。

塀の隙間の配管の上をスイスイ歩いていく。どこに向かっていくんだろう?

塀の隙間の配管の上をスイスイ歩いていく。どこに向かっていくんだろう?

どうやらそのあたりが、野良時代からのミーの領地のようである。

ロビーに戻ってそっちを見ると、竹林から出てきて池を回って、ロビーのガラス窓の板張りのあたりを悠々と歩いていくミーが見えた。その姿はまるで城の見回りをする城主。そういえば、そもそも早雲閣ってお城の名前だ。箱根の頂上、雲の上のこの城は、ミーの居城なのだ。

細い目がますます細くなった。顔が小さい!

細い目がますます細くなった。顔が小さい!

強羅花扇 早雲閣

強羅花扇 早雲閣


神奈川県足柄下郡箱根町強羅1300-492
TEL 0460-82-3311
http://www.gorahanaougi.com/sounkaku/

写真・文 伴田良輔

Ryosuke Handa
作家、版画家。京都生まれ。
著書に『奇妙な本棚』(ちくま文庫)、『ようこそ女将猫』(日本出版社)、『伴田良輔の気まぐれ猫散歩』(辰巳出版)、『謎解き父さん 世界の見方を変える12問』(朝日出版社)他多数。最新刊『ネコ温泉』(辰巳出版)が5月1日発売。

フォトブック『ネコ温泉』

ネコ温泉

ネコ温泉

著・伴田良輔
辰巳出版 本体1400円+税
A5判 オールカラー 112頁

今すぐに秘猫めぐりに出かけたい!
湯気の傍で育った猫たちはみな働き者で、眼が優しく、いるだけでホッとする。
日本の宿がもっともっと愉しくなるキャット・ドキュメント!
――ロバート・キャンベル

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