猫びより
【猫びより】【老いと猫】脳神経外科が語る ネコの健康パワー(辰巳出版)

【猫びより】【老いと猫】脳神経外科が語る ネコの健康パワー(辰巳出版)

猫がそばにいるだけでお年寄りが元気になる―。高齢者と猫を見ていると、そんなふうに感じることはよくあります。今回は「ふれあい鶴見ホスピタル」副院長で脳神経外科医の石井映幸先生に、猫や犬が人に与える健康効果について教えていただきました。(猫びより 2020年1月号 Vol.109より)

  • サムネイル: 猫びより編集部
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猫パワーは抑うつ症状や物忘れにも効果がある?

猫はお年寄りが大好きで、猫好きのお年寄りもたくさんいる。お年寄りが猫を好む理由は、おそらく、静かに寄り添ってくれたり、撫でると心が癒されるからだろう。

もし猫に「お年寄りのどこが好き?」と聞いたなら、きっと「静かで優しい声だニャ」「乱暴なことしないニャン」「温かいおひざの上がたまらんニャ」という返事が返ってきそうだ。

また、これはお年寄りに限ったことではないが、病気で入院したときは、「早く猫に会いたい! 抱っこしたい!」という思いから、「元気になるぞ!」という気力がわいてくる、ということもある。

「明確なエビデンス(科学的根拠)はないものの、猫や犬によるセラピー効果は確かにありそうです」と石井先生。
「当院でも、入院患者さんのご家族が、愛犬を病院の玄関先まで連れてきて、患者さんと面会することがあります。するとそれまで表情のなかった患者さんに笑顔が戻ったり、面会のあとはリハビリ治療がはかどるなど、動物がもたらすよい影響は、私たち医療者が見ていても明らかです」。

ふれあい鶴見ホスピタルの「オレンジカフェ」で活躍するアザラシロボット「パロ」ちゃん

ふれあい鶴見ホスピタルの「オレンジカフェ」で活躍するアザラシロボット「パロ」ちゃん

猫と暮らし始めて笑顔が戻った!

外来のある高齢の患者さんは、抑うつ(意欲の低下や気分の落ち込みが継続している状態)が強く、抗うつ薬による治療を続けていたところ、あるときから笑顔が増え、薬を減らすことができた。「その患者さんに、『生活で何か変わったことがありましたか?』とうかがうと、最近子猫を保護して飼い始めたら気持ちが明るくなってきた、ということでした」。

他にも、軽度認知障害(物忘れは気になるものの、自立した生活が送れる状態)の方のケースでは、愛猫が亡くなったショックから立ち直り、新しい猫と暮らし始めたところ、認知機能を調べるテスト(MMSE)の点数が跳ね上がったそうだ。

動物が人にもたらすよい効果については、1980年に米国の医学者、エリカ・フリードマンによるレポートがよく知られている。心筋梗塞など重篤な心疾患で入院治療後の92人の1年後の生存率が、動物を飼っている人は、飼っていない人の3倍も高かったという。

また、動物と親密に触れ合うと、「オキシトシン」というホルモンの分泌が誘発され、それが不安やストレスを軽減すると考えられている。猫を撫でると心が安らぐのは、そのせいなのかもしれない。

猫が認知症予防にひと役買う!?

また、間接的ではあるものの、「猫や犬と触れ合うことは、認知症予防にもひと役買うかもしれません」と石井先生。

というのも、近年、認知症予防に有効な生活習慣がわかってきて、2017年、アルツハイマー病協会国際会議(AAIC)に「ランセット認知症予防、介入、ケアに関する国際委員会」が提出した報告によると、生活習慣病や抑うつ、運動不足、社会的孤立を予防するための生活改善により、認知症の約3割も予防できることが明らかになった。

「この報告と猫との暮らしを関連づけて考えると、猫の場合、運動のために『一緒に散歩』というわけにはいきませんが、撫でるだけで心が安らいだり、『この子がいるから元気でいなければ!』と思いながら世話をすることそのものが、脳によい刺激になると考えられます」

猫が認知症予防にひと役買う!?


猫仲間との交流で、 楽しい知的活動を

「また、猫好きな高齢者同士で交流を持ち、猫の話に花を咲かせるというのも、社会的孤立を防ぐ観点から、よい認知症予防になりそうです。

最近は、猫の診療に力を入れている動物病院で、獣医さんによる猫をテーマとした講演会が開かれることもあるようです。こうしたところに顔を出すと、猫仲間ができるかもしれません。また、地域猫などのボランティア活動を行っている団体に参加しても、猫を通じた交流が得られ、認知症予防にも繋がると考えられます。

余談ですが、当院には、オレンジカフェ(認知症予防カフェ)が併設され、週に一度の昼下がり、地域の高齢者、入院患者さん、病院スタッフなどが自由に利用しています。アレルギーや感染症の課題があるため、院内に猫や犬などを招くことはできませんが、代わりにAI(人工知能)を搭載したアザラシロボットの“パロ”が、お年寄りの癒し係を担当しています。生活環境的に猫や犬を飼うことができない場合、こうした動物型ロボットを取り入れる高齢者もおられると聞いています」

ちなみに、新しく猫を迎え入れるのが難しい場合は、保護猫の「一時預かりボランティア」として猫と生活することも、生きる活力になるのではないだろうか。猫の命を繋ぎ、社会貢献になる上、猫がもたらす健康パワーにあずかれるかもしれない。

石井映幸 Ishii Teruyuki

石井映幸


脳神経外科医。ふれあい鶴見ホスピタル(神奈川県横浜市)副院長、湘南医療大学保健医療学部臨床教授。著書に『認知症にならない「脳活性ノート」』(マキノ出版)、監修書に『これでわかる認知症予防』(成美堂出版)など。

文・西宮三代 写真・平山法行

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