柴犬、今日もまたいらぬお手伝いをするの巻
こぼしたご飯を舐めて綺麗にしてくれる、ゴミを小さくするのを手伝ってくれる、などなど柴犬が日々“手伝っている”こと聞いてきました。手伝いじゃないものが混ざってもご愛敬です!(Shi-Ba 2018年1月号 Vol.98より)
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お手伝い=自分の役割で誇りを持っていることも
“柴犬”と“お手伝い”。まったくそぐわない単語である。何しろ、柴犬はマイペース。自分の利益になることはしても、飼い主の手助けになることを進んでするようにはあまり見えないからだ。しかし、飼い主に聞いてみると、意外にもいろいろなお手伝いのエピソードが出てきた。あれれ? 柴犬ってお手伝いする犬なの? そもそも犬に“お手伝い”という認識はあるのだろうか?
「お手伝いという認識はなくても、それが自分の役割だと思って、誇りや喜びを持っている犬は多いでしょう」
そう話してくれた、ドッグトレーナーの田中浩美先生。犬が何らかの行動を“自分の役割(お手伝い)”と認識するには、そこに必ず成功体験が含まれる。例えば、行動を行った結果、おいしいものが食べられた、飼い主にごほうびをもらった、などだ。
「例えば、たまたま犬が飼い主さんの靴下を持ってきた時に“すごいね~”などとリアクションを返せば、ほめられたと認識して、行動を繰り返すようになっていきます。トレーニングやしつけの方法と根本は一緒ですね」
パパ「ああ、至福の時間……」
しば「柴枕&柴毛布で、父ちゃんの安眠のお手伝い~」
はな「まったく贅沢な布団だね」
オヤツやフードなどのごほうびがなくても、声をかけるだけでも犬にはうれしい体験となるのだ。ただし、注意しなくてはいけない点もある。
「靴下を持ってくるお手伝いを覚えたとして、犬にはやっていい靴下、悪い靴下の区別はつきません。くわえられたくない高級な靴下を持ってきてしまう場合もあるのです。飼い主さんがコントロールできる範囲の“お手伝い”にとどめておきましょう」
特に家族以外の人がいる場合や公共の場所では注意。できれば、犬が自主的に始めるお手伝いより、飼い主が「GO」や「OK」を出してから行わせるほうが安心・確実になる。
「お手伝いを上手に使えば、犬との関係や絆を深めることもできるんです」
Q 毎日、靴下を脱がせてくれます。これもお手伝いになりますか?
A 最初は遊びだったものが、飼い主が喜んでいる(もしくはダメ~などと騒いだ)リアクションで、行動が強化されたのでしょう。家族に問題がなければ“お手伝い”に分類していいと思います。こちらも、していいもの、いけないものの区別を飼い主さんがつけてあげてください。他の人に迷惑をかけるようなら、全面禁止もやむを得ないでしょう。
Q ゴミ拾いが得意ですが危険性はないですか?
A ペットボトルなどをくわえて持って歩くだけなら問題ないでしょう。破壊してしまうと、異物誤飲の原因になるので注意です。また、くわえていいもの、悪いものの区別は犬にはつきません。危険なものを見つけたら近寄らせないなど、飼い主さんが自衛してください。できれば、飼い主さんが「OK」のコマンドを出せるようになるとベストだと思います。
Q ダンボールの破壊が得意ですが、問題ありますか?
A お手伝いというより、遊びの一環の意味合いが強いと思います。飼い主さんが困っていなければ問題ないでしょう。壊されてまずいものはそばに置かないなど、壊していいもの、悪いものは、飼い主さんが管理してください。こちらもペットボトルと同様に、誤飲の可能性もあるので、オフ(放す)のトレーニングはしておいた方がいいでしょう。
Q 我が家の愛犬はまったくお手伝いに興味がありません
A 柴犬ではよく聞きますが、愛犬のやる気スイッチを発見できていないだけだと思います。どんな犬でも、絶対に好きなオモチャ、オヤツなどがあるはず。もしお手伝いや仕事を覚えてほしいなら、まずは愛犬のテンションがあがるものを根気強く探していきましょう。愛犬がした行動を飼い主さんがほめる、ということも立派なごほうびになります。
Q 先生のオススメのお手伝いはありますか?
A 定番ですが、新聞運びはよいと思います。私は以前、冷蔵庫につけたひもを引っ張って扉を開けてもらったり、鼻先でクローゼットを閉めてもらったりしていました。教え方と飼い主さんの行動次第で、どんな物事もお手伝いになります。また犬によって得意な行動も変わります。周囲に迷惑をかけない範囲ならば、いろいろと試してみるのもいいでしょう。
【お手伝い柴犬、その1】しば・はなのお手伝い絵巻
埼玉県 東井しば(オス・2歳)
大人の男になりました
飼い始めてから、しばの顔がご主人の靖展さんが子供の頃に飼っていた雑種犬にそっくりなことが判明。「無意識で選んでいたのかも」と靖展さん。幼少時はそれなりにヤンチャだったが、現在は落ち着いた男に。
はな(メス・7歳)
家族が見つかりました
穏やかでマイペースな黒柴のはなは、保護犬出身。現在、食べる楽しみや散歩の楽しみなどを体験している。
地域の美観は僕が守ります! ゴミ拾い柴、登場!
頑張る父ちゃんを癒す 柴毛布&枕の手伝いも
東井家に撮影スタッフがお邪魔すると、2匹の柴犬が穏やかに迎えてくれた。何? と好奇心旺盛な目で見てくるのが、赤柴のしば。離れたところから様子を見ているのが、黒柴のはなだ。
「お手伝い的な行為をたくさんしてくれるのは、しばの方ですね。一番のお手伝いは、やはり町内のゴミ拾いでしょうか……」と奥様の弥沙さん。なんとしば、散歩コースに落ちているビニール袋やペットボトルをくわえて、家まで持ってくるらしい。自治体や学校が開く“ゴミ拾い活動”に参加してもおかしくない、掃除柴さんなのだ。
「裏を返せば何でも口に入れてしまうということなので、拾い食いも多くて。それはやめてほしいんですが……」
もう一匹のはなは、2016年の夏に東井家に加わった保護犬出身の柴さん。現在、いろいろなことを体験中なので大きなお手伝いはしていないが、家族が食べたヨーグルトの容器をきれいにするという大役は譲らない。
そしてもうひとつ。2匹が協力して立派なお手伝いもしている。それがご主人の靖展さんの布団になること。
「しばを枕にして、はなを抱っこするんです。愛犬布団の完成です(笑)。しばは優しいので、僕が頭を乗せると“どうぞ~”といわんばかりに、体を伸ばしてくれるんです」と靖展さん。
愛犬のぬくもりが癒しになっているそう(もちろん、しばに負担がかからないよう、靖展さんも調整している)。家族をヒーリングする。誠に正しい、柴犬さんのお手伝いなのだった。
「撫でられるとうれしいの」
靖展さんに撫でられてうれしそうなはな。前半生はいろいろあったけど、これからはずっと幸せ。
しば「僕がコロコロしてあげる~♪」
ママ「いや、主にキミの毛だからね」
弥沙さんが掃除をするとしばが寄ってくるが、手伝うつもりなのかは不明。自分にコロコロされると、気持ちよさそうな顔になる。
「これだけ綺麗ならゆすがなくてもいいでしょ?」
3日に1回くらいの割合でいただくヨーグルト。容器をきれいにするのは、はなの大事な役目。
しば「ふかふか犬枕だよー」
パパ「遠赤外線よりあったかいね」
これが靖展さん絶賛の犬布団。父ちゃんの安眠を助ける、大事なお手伝いなのだ。ヒーリング効果も抜群。
道路に落ちているもの全部拾っちゃいます!
しば「あーまた落ちてる!」
しば「いけない人がいるんだなあ」
はな「ビニール忘れてるよ」
しば「もーダメでしょ落としちゃ」
撮影日、仕込み(笑)でペットボトルとビニール袋を道路に設置。すると、しばは一直線にゴミに向かい、ぱくり。お掃除犬らしい、スマートな拾い方だ。ただし、ゴミが2つ以上あると、片方を落とす場合も……。
【お手伝い柴犬、その2】鈴のお手伝い絵巻
神奈川県 小林 鈴(メス・1歳)
弾丸のように走ります
犬を積極的に飼いたがったのは奥様の夕紀さん。柴犬メインで探していて、柴犬でなかったらもっと大型犬がよかったのだそう。鈴と運命の出会いを果たし、迎え入れた。人懐っこくて活発なヤンチャ娘だが、TPOはしっかりとわきまえているタイプ。夕紀さんいわく「内弁慶で、外ではおしとやかな柴犬になります」
靴下のコーディネートはアタシにお任せ!
台所は冷えるからあっためてあげるね
小林家にうかがうと、弾丸のように飛んできた茶色の固まり。小林家の愛犬、鈴だ。小柄な体をゴム鞠のように弾ませて、スタッフを歓迎してくれる。あれ、鈴、いつの間にかスリッパをくわえてますけど……?
「相手をしてほしい時など、わざとスリッパや靴をくわえて来て、こちらの様子をうかがってきますね」と奥様の夕紀さん。鈴にとって、来客歓迎のお手伝いでもあるのかしらん?
鈴のおもしろお手伝いとしては、夕紀さんのカイロ役がある。台所で料理する夕紀さんの足元でフセして、足を温めてあげるというもの。なぜか足の甲にフセするので、夕紀さんは微妙に身を乗り出して調理するとか……。
「落ちた野菜などを掃除するお手伝いも兼ねていると思います(笑)」
夕紀さんいわく、鈴の一番のお手伝いは“靴下脱がし”だそう。家族が靴下を脱ごうとすると鈴が寄ってきて、一緒に引っ張ってくれるらしい。撮影日も夕紀さんが脱ぐしぐさをすると、すっ飛んできた鈴が反対側から引っ張ってくれた。一見遊びのようだけど、真剣な表情からするに、鈴的にはお仕事してる意識が高いのかもなあ。
靴下に関する鈴のお手伝いはこれだけではない。なんと朝、クローゼットの中から家族の靴下を選んで持ってきてくれることもあるそう。
「くわえてくるので、どうしても湿ってしまうんですけどね。主人はそれを履いて出勤していきます(笑)」
それも飼い主の愛か。
いつだって味見してあげるよ
鈴は味見というお手伝いもしたいと思っているが、それはダメなので湯気をエアーペロペロして、お手伝い気分に浸る。
ほらほら、ママも頑張って~
リードを着ける前は必ず部屋中を逃げ回る。す早い鈴をつかまえるために夕紀さんも必死。ある意味、運動量アップの手伝い!?
お・も・て・な・し
スリッパを持ってきて来客をおもてなし。まあ、鈴の“遊びましょ”のサインでもある。
カイロのお礼は、肉でもいいのよ?
料理する夕紀さんの足元を温めるお手伝い。落ちてきた野菜などもすばやく処理できるベストポジションなのだ。
靴下脱がしは いつだってお任せ!
今日のコーディネート的にこれがいいんじゃない?
はいはい、脱がしまーす
カメラマンさんにもサービス♥
靴下を脱がせてくれるのが、鈴の毎日のお手伝い。その日に履く靴下を選んできてくれることもあり、ご主人は鈴の選んだ靴下を履いて意気揚々と出社するそう。「ストッキングもやるのでそれは要注意です(苦笑)」
【お手伝い柴犬、その3】虎鉄のお手伝い絵巻
神奈川県 高橋虎鉄(オス・1歳)
若さあふれてるぜ!
還暦の記念として迎え入れられたオス柴。ペットショップで「小さくて優しくておとなしい子」と言われたが、予想以上に立派なボディとヤンチャな性格に成長。今では高橋家の笑い話になっている。基本は強気なくせにどこか抜けていて「ガウガウしているくせに、滑って転ぶ」など、三枚目的行動も多いそう。
ゴミ捨て大変だから、小さくするの手伝うよ!
イケメンなのに三枚目 家族の癒しという手伝いも
「60歳になって、人生でやり残したことはないだろうか、と考えた時、思い浮かんだのが〝犬を飼うこと〞だったんです」と飼い主の陽子さん。
ご主人の延幸さんも昔から柴犬に憧れていたこともあり、話はトントン拍子にまとまった。そうして迎え入れたのが、高橋家の愛犬・虎鉄だ。
年齢が若いこともあり、虎鉄はとにかくパワフル。お手伝いも有り余った若さとパワーを活かしたものが多い。
「虎鉄が一番楽しそうなお手伝いは、ダンボールや梱包材の破壊ですね。ビリビリに破いて小さくしてくれます」
取材日は、陽子さんが準備してくれていた包装紙を嬉々としてビリビリに。手伝っているのか遊んでいるのかわからないのが、人間の子供のようで微笑ましい。そんな虎鉄を見る陽子さんや娘さんの未来子さんも楽しそうで、とても平和なお手伝いなのだ。
「どの家でもあると思いますが、家人が床に落としたオヤツやご飯はすぐに飛んできて、きれいに舐めとってくれます。時々、食べ物でもない床のゴミも舐めている気がしますけど……」
それもまあ、床掃除というお手伝いになっている……のかな?
撮影終盤、さまざまなお手伝い(!?)で体力を使い果たしたのか自分のケージでウトウトし始める虎鉄。そんな様子を見つめる陽子さん、未来子さんの顔はニッコニコしている。家族にいつでも笑いと癒しを提供する虎鉄の存在こそが、何よりも高橋家のお手伝いになっているのかもしれない。
さ、オレも味見してあげよう
床に落ちたオヤツだけでなく、椅子に乗って味見をしてくれようとすることもある。まあ、もちろん止められちゃうけどね。
いつだって待機してるぜ!
料理する陽子さんの周りをウロウロ。床が汚れないように、いつだって見張っているのです。
あ、こんなとこにもゴミが~
不思議な体勢になったかと思えば、床をナメナメ。これも虎鉄なりのお掃除のお手伝い……か?
匠の技です
かつての虎鉄は家のリフォームにも熱心だった(今では飽きてくれた)。その痕跡を隠すため、床にはマットが敷かれているのだ。
捨てやすいように小さくしてあげる!
小ちゃくしちゃうよ~
何なに、引っ張りっこ? 負けないぞ~!
母ちゃん
遊ばせ上手だぜ!
宅配便の梱包材や包装紙をバラバラにしてくれる、エコ柴犬の虎鉄。ただし、途中で余計なゴミが出たり、飽きられる可能性もあり……ってとこかな。空箱やダンボールを解体するのも嬉々として手伝ってくれます。
柴犬だからお手伝いしない そんなことはないのです
柴犬もち~
遊び相手も務めます
田中先生の愛犬はコーギー。飼い主と何かをする意欲の強い犬種だが、柴犬にもそれはあてはまるのだろうか?
「飽きっぽい、熱心の差はあっても、飼い主と喜びを共有するのが嫌いな犬はいないでしょう。柴犬がそう見えないなら、飼い主さんが最初からあきらめている可能性も。いろいろと試したら絶対に何かが見つかると思います」
何かをしてほめられる。その喜びは犬も人間も一緒。ほめられれば、もっと頑張りたくなるし、飼い主のことも好きになる。お手伝いを通して柴犬といい関係を作ることも可能なのだ。
母ちゃんたちが笑ってくれるなら本望!
ライターのひと言
良質な「お手伝い」は双方にとってWIN&WINの関係
お手伝いって奥が深いんだね~
柴犬のお手伝い企画と聞き「それってイタズラしてるだけじゃないの?」と思ったものだが、読者宅を取材し、田中先生のお話を聞いて大変反省。柴犬にもきちんと“お手伝い”への誇りがあった。根底にあるのは、自分が楽しいこと、飼い主が喜んでくれること。お手伝いしたら飼い主が喜ぶ、だから自分もうれしい、というわけだ。上手に機能しているお手伝いは、双方にとってWIN&WINの関係が作れるのだなあと実感した取材だった。
Text:Eriko Itoh Photos:Teruhisa Tajiri、Minako Okuyama
監修●田中浩美先生
コーギーのちぇりぃを迎えたことがきっかけで、トレーナーとハンドラーの道へ。コーギーで日本初となる、ドッグショーと訓練競技会の二冠チャンピオンを完成した。現在は全犬種対応のしつけ教室も主宰している。
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