ポイと捨てられた子猫
ちょびちゃんと山田あおいさん(58歳)が暮らしているのは、閑静な住宅地。玄関から階段を上がった2階の居間におじゃますると、あれまあ、なんとも愛らしい! 白黒バットマン柄の猫ちゃんにお出迎えいただいた。
耳は聞こえなくても、ママとは以心伝心にゃのだ!
この子が、御年24歳のちょびちゃん(♀)。「同居している黒猫のびび(15歳♀)は、インターフォンが鳴ると“ピンポンダッシュ”で隠れますが、ちょびは平気」と山田さん。すっかり耳も遠いちょびちゃんだが、自慢の嗅覚と触覚はまだまだ! 客人をクンクンし、なでなでされると「ま、怪しい者ではにゃかろう」と、余裕の様子だ。
同居猫のびびちゃん。客人が来るとダッシュで逃げる(写真・山田あおい)
山田さんとちょびちゃんの出会いは、1993年の9月。
「たまたま通りがかったペットホテルに里親募集の紙が貼られていて、覗いたら、白い2匹の子猫と、生後1ヶ月ぐらいの白黒の子猫が1匹いました。一度は通り過ぎ、用事を済ませて再び戻ってきたら白黒の子猫がまだいたのが気になって。事情を聞いたら、車の窓からポイと捨てられ、それを見ていた子どもが拾ってペットホテルに連れてきたということで、引き取ることにしました」。
同居猫とのほんわかした日々
そんな縁で山田さんの家族として迎え入れられたちょびちゃんは、すくすく成長。穏やかでマイペースな性格から、いつの間にか4匹の同居猫たちの癒し係を担当することになる。
「ちょびがいつも他の猫を舐めてあげていたので、みんなくっついて寝たがるんです。おかげでよく毛玉を吐いていましたね(笑)。ちょびがうちに来た頃、『ちっち』という猫がやきもちを焼いて、私がちょびを触ると「ウニャー」と大きな声で鳴いたり、ちょびを呼ぶとちっちも一緒に走ってきたりしていましたが、結局ちっちも、最後までちょびから離れようとしませんでした」。
幼い頃のちょび(右)。持ち前の穏やかな性格で先住猫たちともすぐに馴染んだ(写真提供・山田あおい)
こうして同居猫たちとほんわかした日々を過ごし、10歳を過ぎても大きな病気をすることがなかったが「虫歯で苦しむようになってしまいまして。12歳になる頃、動物病院で3~5本ぐらいの悪い歯を抜歯したんです。そうしたら驚くほど元気になりました。食事はドライとウェットフードを交互に与えていましたが、ドライを食べるときは残っている歯で上手に『カリッ』と割って食べていました。あれ以降、絶好調で、動物病院にお世話になることもほとんどありません」。
食べこぼしや目やになどはウエットティッシュできれいに拭いてすっきり
耳が聞こえなくてもアイコンタクトで
ちょびちゃんは昨年、「公益財団法人 日本動物愛護協会」から「長寿表彰状」を授与された。この驚異的なお達者の秘訣について山田さんは「穏やかな性格とよく寝ることかな?」と話す。
ただ、こればかりは致し方無いのだが、老いのサインは加齢に伴い目立ち、19歳になると夜中に大きな声で鳴くようになり、獣医さんから「認知症の症状かもしれない」という説明を受けた。「猫に慣れていない人なら、夜鳴きは精神的に参ってしまうかもしれません。でも私は過去の経験から『どのシニア猫も通る道』として受け入れていました」。
多いときで6、7匹の猫を飼っていた山田さん。自宅の中庭には歴代の猫たちが眠るお墓がある
その後夜鳴きはなくなったが、20歳になった頃、今度は耳が完全に聞こえていないことがわかった。
「ちょびは小さな頃から雷が大嫌いで、ゴロゴロ音がすると、どこで音がしているのか探して回っていましたが、あるとき、雷が鳴ってもじーっとしているんです。それで聞こえていないことに気が付きました。でも、私が手招きしたり、目が合ったりすると『お呼びですか?』と歩いて来てスリスリ、抱っこ……。聞こえなくても不自由ないですね」。
愛情いっぱいのお手入れで病気知らず
最近は、食事のあと口の周囲が汚れたり、排泄のあとおしりのまわりが汚れていることもある。自分で爪の手入れもしなくなったため、爪の根元に垢がたまることもあるそうだ。
「食事のあとはお口まわり、トイレのあとはおしりのまわりを拭いて清潔にしています。爪の根元の垢は、放置すると化膿することもあるので、たまに綿棒などで取ってあげます。また、歳をとると若い頃ほどグルーミングをしなくなるので、体はまめに蒸しタオルで拭いています」と、山田さんの行き届いたお手入れで、元気いっぱいのちょびちゃん。
お顔を拭いてもらうと気持ちいいのだにゃん
食事は朝夕の2回。ペースト状のフードを中心に、気に入った銘柄のものを好んで食べている。山田さんは、今後ちょびちゃんが食べなくなっても“強制給餌”はしないという。
「以前飼っていた猫の終末期に強制給餌をしたら尿毒症が悪化し、つらい思いをさせてしまいました。老猫がご飯を食べなくなったら、きっとそこが『もう十分生きたよ』というサインなんだと思います。そこからは無理には食べさせないで、お気に入りのスペースでゆっくり過ごさせてあげたいと思っています」。
力強い立ち姿。山田さんの穏やかなケアがちょびちゃんの元気を支えている
公益財団法人 日本動物愛護協会
「動物の命を守る活動」(行き場を失った動物たちの新しい家族を探す活動)、「動物を知ってもらう活動」(各種広報活動)、「社会への提言活動」(各種動物愛護イベント活動)を中心に活動する全国規模の動物愛護団体。ちょびちゃんが受賞した「長寿表彰状」は「社会への提言活動」のひとつで、一定年齢を超えたシニア猫と犬に表彰状を授与している。
申請方法
対象:18歳以上(猫)
◉必要なもの:申込書(日本動物愛護協会のサイトからダウンロード可)、獣医師の診断書、検査データや予防接種の証明書、年齢を証明する資料等。詳しくはお問合せください。
◉送り先:〒107-0062 東京都港区南青山1-15-15 乃木坂パークフロント2F 長寿表彰係
◉お問合せ:公益財団法人日本動物愛護協会
TEL 03-3478-1886
(月〜金曜10:00〜12:00、13:00〜17:00)
http://www.jspca.or.jp/chojyu.html
文・西宮三代 写真・平山法行