【犬の飛びつきは感情豊かな証拠?】コーギー様の重〜い思〜い体当たり
コーギーって、犬界でもトップクラスに感情豊かな犬種の気が……。その感情を体全体で表現し、時には、重ーい体当たりを繰り出すことも。それらは、どんな時に、どんな理由で繰り出されるのだろうか?(コーギースタイル Vol.39より)
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一度喰らえばやみつき コギ様の体当たりは快感
玄関を開けた瞬間、何かが飛んできたと思ったら、どーんとものすごい衝撃が! ずばり、コーギーさんの必殺技「お帰りなさ~い」体当たりだ! これ、コーギーの飼い主あるあるではなかろうか。
コーギーさんのあの体当たりには、一度経験したらやみつきになる重さと勢いがある。まあ、俗にいう飛びつきなのだが、コーギーの場合、体当たりという言葉がしっくりくる。
その重~い衝撃をくらうのは、飼い主だけではない。来客、友達犬、初見のはずの我々取材班も歓迎のどーん! を受けることは珍しいことではない。
思いのこもった重い体当たり受けてみる!?
体当たりは挨拶の時だけではない。飼い主が床に座った瞬間に膝の上めがけて、ぶわっとジャンプして来ることも。リードを見たら膝に飛びついてくることもあるし、猫や自転車などのちょっと敵対心を抱かせるものにも飛びつきたがることもある。
でも、なんで犬、特にコーギーは体当たりをするんだろうか? どんな時にすることが多いのか?
帝京科学大学講師の今野さんと、読者への取材で解き明かしていこう。
帰宅時に見せる興奮で、愛と重さの詰まった体当たりをお見舞い!
体当たりの背後には 高確率で強い興奮がある
犬の体当たりは、興奮している場面によく見られる。具体的にどんな感情の時に興奮するかは後の図を参考にしてほしい。体当たりの背後には、人間でいうと「怒り」「喜び」「ストレス」などの感情が関わっている。その結果、時には親和的に、時には攻撃的に体当たり、飛びつきをしてしまう。
「特に強い感情とともに体当たりをするのは、飼い主さんが帰ってきた時。つまり挨拶の文脈です」と今野さん。これは、彼らの先祖オオカミの行動が強く残っているからだという。
「親と子の家族で暮らすオオカミは、狩りから戻ってくると、体をこすりつけたり、顔を舐めたりして互いに挨拶をします。オオカミのこういった行動は、飼い主が帰宅した時の犬の出迎え行動によく似ています」
好奇心が強いと、動いている知らない物に飛びつくこともある。狩りのような感じ。
「今はクールダウン中~」
以前は同種の群れで暮らしていたが、今は人間の家族が仲間だ。
「帰宅時に見られる体当たりは、犬の愛情表現のようなものなので、飼い主さんもスキンシップをとるのが自然です。人間社会でも挨拶したのに相手に無視されたらショックですよね。それと似ています」
怒っている時。例えば、知らない犬が飼い主といちゃいちゃしていると、飛びついてしまうこともある。
「むむむ いちゃいちゃ禁止」
また逆に、興奮して不快に感じている時、すなわち怒ったりストレスを感じている時も攻撃的な意味で飛びつくことはある。好奇心が強い犬は見たことのないものに、飛びつくことも。
大好きなオモチャで遊びたい感情を抑え、マテをすることができる。体当たり行動には、この理性では抑えられない強い感情が背後にある。
「余裕で我慢できるよ」
挨拶の時に体当たりするのは、愛情を確認する作業でもある。
「そこんとこよろしくね」
脳の仕組みを知ろう
オスワリは理性的な証拠!
抑えきれない感情もある
情動を司る脳領域は大脳辺縁系。飛びつく時に生まれる感情は、ここで作られる。感情は、行動の動機になる。楽しいから飛びつこう、怖いから離れよう、といった感じだ。そして、その行動を抑制する、いわば理性を司るのが大脳新皮質。犬は自分の行動を抑制できるので、理性があると考えられる。脊椎動物はみんな持っている。理性が強いか弱いかの差だ。「犬はいわゆる理性を働かせるのが上手な方だと思いますよ」と今野さん。ゴハンの前のオスワリ、オテなどは、あきらかに規制的な行動である。ということは、体当たりをする時は、理性では抑えきれないほど感情が高まっている場面だといえる。
怒っても飛びつくよ
情動を測ろう!
興奮すると飛びつくよ
一口で興奮と言ってもいろいろなものがある
これは情動座標。各動物の感情を測る時に用いられる。犬が「嬉しい!」という感じで飛びつく場合、覚醒度が高く快に近い右上半分の感情だろう。一方、何かに攻撃する際に見られる体当たりは、覚醒度は高いが不快である左上にある感情によって生じるだろう。
その時の様子をよく見てね
ぶつかりあいで心を通わせる? それが浪花流!
大阪府/森 虎愛(メス・6歳)
虎桜(メス・4歳)
阪神タイガーズファンのご主人・俊学さんに名づけられた虎女子2匹。虎愛の性格はひかえめ、甘えん坊。虎桜はやんちゃだけどビビリで、虎愛のことをよく頼る。オヤツを見せてマテを長くさせると、よだれをたらすのがかわいい。
積極的なコミュニケーション 体当たりで仲良くなった
2匹ともコーギーらしく、感情表現が豊か。取材班が玄関を開けると、外に出ないように設置しているナイロン製の柵に飛びつく! 嬉しさを体全体で表現するのだ。
リビングに通してもらっても、遊んで~という感じでスタッフへの歓迎の体当たりは続く。特にまだまだやんちゃな虎桜の勢いはものすごい。
「虎愛はけっこうおとなしめなんです。でも、虎桜は体当たりでコミュニケーションをとることが多いかもしれないです」と奥様の安希さん。
虎桜を家に迎えた当初、虎愛は「なんやろ?」という感じでにおいを嗅いでいたものの、ちょっと警戒していた。
「反対に虎桜は興味津々で、じゃれつきながら虎愛に体当たりをしていました」とご主人の俊学さん。
虎愛は最初はうっとうしそうに無視をしていたというが、時が経つにつれ仲良くなった。よく拳を交えると心が通じ合うというが、体のぶつけあいでも心を通わせることができるのだ。
虎愛の体当たりエピソード
・かわいいと言われた時
・オヤツが欲しい時
・誰かが床に座った時
虎桜の体当たりエピソード
・外に出たい時に体当たりでアピール
・机の上にゴハンを見つけた時
虎桜「だれや?」
虎愛「なんや?」
取材班の登場にテンションあげあげの2匹。
ジャンプを繰り返し、柵に飛びつく!
この行動は飼い主の帰宅時にも見られるそうで、そちらのほうがもっと激しい。
喜んでいるわけじゃない
犬のかぶりものを装着し、父ちゃん登場! 警戒度マックス。
虎桜は俊学さんだと気づかずに脅える。
虎愛はお姉ちゃんの風格をみせ、「なんやねん?」という感じで飛びついた。
虎愛「わーい」
虎桜「アタシが先だー」
安希さんが床に座ると「チャンス!」と2匹とも猛ダッシュ! 膝の上めがけてジャンプ!
「結構な勢いです」と安希さんは苦笑い。その後は、顔を舐める競争が始まる。
やっぱあたしかわいいでしょ
安希さんが「かわいい」という言葉をつぶやくと「え? あたいのこと?」と喜んで、体当たりで嬉しさを表現。
感謝を込めた重い飛びつきだ。安希さんも嬉しそうな表情。
パパ! まっとってー!
パパ「うわー!」
虎愛「愛をくらえ!」
俊学さんにむかって猛ダッシュ! 大好きな人に、飛びつきたい!
その一心で、ものすごいスピードに到達。
愛のこもった、重ーい体当たりをおみまい。嬉しそうな虎愛。
虎桜「ずるい〜」
虎愛「な、なにごと?」
虎愛の走る姿を撮影すべく、何度もカメラに向かってダッシュしてもらったところ、虎桜が「姉ちゃんばっかり目立ってずるいー」といった感じで体当たり。
かわいい嫉妬だ。
虎桜「とう!」
虎愛「お、やったね!」
やったーわたしのー
キュウリの千切りを心から愛している2匹。
机の上に発見し、勢い良くジャンプして前足をかけると、ものすごい衝撃!
体当たりしたように机が揺れる。無事に見つけて完食。
過去の飛びつき
あまりに外に出たくてドアに飛びつき!
以前は庭に面した透明の引き戸に飛びついて、前足でカリカリしていた。外に出たかったのだろうか。危ないので、引き戸の前に近づけないように柵を付けたのだとか。それ以来、体当たりは治った。
「ゴハンくれへん?」そんな時は、体当たりで自己主張
大阪府/田中 恋(オス・16歳)
動物看護士の仕事をしている愛里さん。その進路に影響を与えたのは恋の存在。時々同伴出勤することも。笑顔を絶やさない、愛嬌ある犬だ。特技は、名前を呼ばれると前足をあげて返事をすること。
注目されるためならばあの手この手で体当たり
「私が小さい頃から、一緒に走って遊んでいました。昔はよく飛びついてきたのですが、最近はさすがに落ち着いてきましたね」と愛里さん。
16歳のシニア犬だが、恋はまだまだ若いもんには負けへんで~という感じで元気いっぱい。若い同居犬の柴犬せりかとも対等に接している。散歩へ行く前にリードを見ると、興奮して飛びつくこともある。
そんな恋が体当たりするのは、自己主張する時だ。
「家族が忙しくて、誰も恋の相手をしないと、ゴミ箱にわざと体当たりして注目を浴びようとするんです」
なんといじらしい体当たり! これも家族への愛情から生まれる体当たりに違いない。
「ゴハンを食べ終わった時も、まだ欲しい~といわんばかりに、お皿に体当たりして引っくり返しています。食欲は全然衰えていませんね」
いつもニコニコ笑っていて、穏やかな犬という印象だが、自己主張する時はしっかりするのだ。
恋の体当たりエピソード
・ゴハンを食べ終わったあと飼い主の膝上を狙ってジャンプ
・自分が主役になりたくて体当たり
恋「今は僕の時間」
せりか「ワイも! 抱っこして!」
愛里さんが座ると膝の上に飛び乗る。抱っこをせがむのだ。この瞬間が恋にも、愛里さんにも至福の瞬間。隣で、恋の前足パンチを受けているのは、同居犬の柴犬のせりか。
ここは特等席やで!
愛里さんの膝の上にジャンプして体当たり! 何かをアピールしているのだろう。
散歩かゴハンか。それとも、遊んでほしい?
「ただ単に甘えているだけかも」と愛里さん。
メシがうまいんや
ゴハンが毎日の楽しみ。大好きなフードを嬉しそうに食べる。
しかし終わった後、皿に体当たりして引っ繰り返す。
「もうちょっと、食べたいんやけど〜!」って感じか。
わーいたまらんわー
取材日は天気もよかったので、散歩中も気持ちが良さそう。
公園に着いたら、愛里さんに飛びついて抱っこアピール。
腕の中で気持ち良さそうな表情をみせるのであった。
なんか転がったよ!
僕を見てアピールのために、ゴミ箱に体当たり。
倒して、注目を浴びようとする。すごく頭脳派なのだ。
でも、そんなことしなくても、家族はみんな恋のことが好きだよ。
せりか「目立ちたがりやなあ」
恋「僕が主役」
カメラマンが庭からせりかを撮影していると、にゅっと現れた恋。
僕が主役だ! とばかりに、体当たりしてスペースを確保。
自分も写り、嬉しそうな顔をみせる恋なのであった。
過去の飛びつき
2人で体をぶつけ合い遊んでいた
愛里さんが小さい時、2人で体当たりをしあって、プロレスのような遊びをしていたそう。お互い大人になって、最近はやらなくなった。また、サッカーボールに体当たりして、転がして遊ぶのが好きだった。
家族や来客だけでなく、地面にまで体当たりしちゃいます!?
和歌山県/澤井陽向(メス・2歳)
好奇心旺盛。犬も入れる水族館に行った時、ウツボやヒトデに興味を持って、水槽にはりついて観察していたのだとか。水の生き物が珍しいのは犬も同じなのだろうか。夏は海に家族と泳ぎに行くことも。
成功したらちゃんとほめて! 芸達者な犬の体当たり!
陽向はいろいろな場面で体当たりをする。まず、怖くて助けを求める時。
奥様の章子さんが掃除機をかけはじめると、音に驚いて腰が抜けるほど怖がる。ご主人の伸之さんに「何あれ?抱っこして守ってや~」とばかりに膝へ飛びつき、助けてとアピールする。
また、陽向は芸達者な犬だ。例えば、オモチャのピアノを弾きながら、歌うような声をだすのが日課。
他にも特技はいろいろあるのだが、その中でも得意なのはオモチャの片付け。
「オモチャ入れから、ボールなどが外に出ている時、片付けして、というとボールをくわえて片付けるんですよ」と奥様の章子さん。
そのあと、成功した興奮からか、章子さんに体当たり!「ほめて!」とばかりに、顔を舐めまわす。その時の体当たりの威力はかなりのものらしい。
重ーい体当たりに「やめてー」とは言う章子さんだが、まんざらでもなさそうな表情をしているのを取材班は見逃さなかった。
陽向の体当たりエピソード
・高度な芸を成功させた後
・パパが帰ってきた時
・ママに抱っこしてほしい時
ライターO「歓迎してくれて嬉しい」
陽向「誰だ!?」
現れた取材班に、どかーん! と体当たり。
あやしいヤツ! と思っているのかもしれないが、なんとなく歓迎してくれているように見える。
顔も舐められて嬉しそうなライターO。
あんただれや?
体当たりやー
まいったか!
電動で動く犬のオモチャにスイッチを入れると、大興奮。
突然テンションがあがり、体当たりして転がし、着ている服をくわえて振り回すのだ。
ライバルだと思ってる?
たのしー
電子ピアノを床に置いて自動演奏の音を鳴らすと、反応して突撃!
飛びつくように、前足で音に合わせて鍵盤をひく。
そして音に合わせて歌うように吠えることも。
もうかりまっか〜!
芝生の上を走り回る! 特に輝いて見える陽向。
ものすごいスピード。
そんな時、大好きな人に名前を呼ばれたら、そのままの勢いで、飛びついてしまうことも。
パパ、あれあかんヤツや
「なんですか!? あの音? 怖い! パパ助けて!」
ヘルプサインを込めた体当たり。
伸之さんを頼りにしている証拠。
優しく抱き上げてもらえば、陽向も一安心なのだ。
ほりほりほりほり
「今日も良い日やね」
お鼻砂まみれ……
けっこう掘れたわ
砂浜に体当たり! 体をごしごしこすりつけたあとは、穴をほりほり。
深くなったら、鼻を突っ込む。
地球に体当たりをかますスケールの大きい女子、陽向なのだ。かっこええ!
「よっしゃ飛びついたろ!」
飛んでるオモチャ
遊びの天才・章子さんが考えだした新しい遊び方。
黒ひげのかわりに、ぬいぐるみを入れ、ナイフを順番に刺す。
ぬいぐるみがジャンプすると、それに飛びつくのだ!
過去の飛びつき
気づかぬうちにドアに体当たり!
ドジな性格も持ち合わせている。ドアに気づかずに激突してしまったことがあった。予期せぬ体当たり。それ以来、用心するようになった。フレンドリーで、おっちょこちょい。なんとも愛嬌のある犬だ。
再会を祝っての体当たりは大目に見てあげよう
- Q1 -
体当たり後、 顔を舐める意味は?
- A1 -
帰宅時に体当たりされた後、そのままの勢いで顔をペロペロ舐められることは、多々ある。これは、オオカミ時代の名残と言われている。オオカミの子供は、狩りから帰ってきた親の口元をペロペロ舐めて、口の中に入っている肉を吐いてもらうのだ。
- Q2 -
挨拶ってどういう行動なの?
- A2 -
動物の挨拶行動とは、群れ生活で社会的な仲間と一定期間離れた後、再会した時にとる行動。でも、犬は見知らぬ来客にも喜んで歓迎するような行動を見せる。これは挨拶といえるのかどうか、実はわかっていない。よく観察すると、飼い主の帰宅時とは違った行動をとっているかも。
- Q3 -
帰宅時に喜びすぎるのは、問題?
- A3 -
犬はヒトと暮らす以前、朝から晩まで一匹で留守番をさせられることはなかった。飼い主の帰宅時、かなり興奮している場合、単独でいる時間が長すぎて不安な気持ちがあるのかも。その場合、他にもストレス反応が出る場合がある。もしそういうサインを見つけたら、できるだけ留守番時間を減らすなど、工夫してあげよう。
体当たりは愛の証拠!
さすがコーギー様! 感情表現がほんとに豊かでした。嬉しい時、怖い時、寂しい時、怒った時、実にいろいろな場面で体当たりをするんだなあ。
「先程も言った通り、体当たりするということは、背後に強い興奮があります。もし困ってしまうほど体当たりしてくる場合、興奮するきっかけをなくすことが重要です」
例えば、掃除機など特定のものを見て興奮する場合、掃除中は違う部屋で過ごさせるなど、それを見せないように工夫をすればよい。
「飼い主さんが帰宅時に愛犬から体当たりされすぎて困るのであれば、放っておくことが一番です。相手にするとそれがごほうびになりますから、もっとひどくなる場合もあります。でも、個人的には、飼い主が帰宅した時の嬉しさを表現する体当たりは、大目にみてもよいと思いますね」
そうなのだ。実際、体当たりを受ける飼い主さんたちも大きな心で愛犬の行動を見守ってあげているのが印象的だった。その両者の関係を見ていると、かなり癒される。
時々、どすん! という音が聞こえてきそうなほど、勢いのある体当たりもあった。その多くは、飼い主へのもの。愛情を伝える体当たりは特にヘビー級。だって、重ーい、思いがこもってるもんね。
Text:Daizo Okauchi Photos:Minako Okuyama
監修:今野晃嗣先生
帝京科学大学講師。動物の個性や性格の生物的基盤の解明をめざし、質問紙法から遺伝子解
析まで、幅広い手法を使って解析を進めている。日本動物心理学会、日本動物行動学会など
に所属。