猫びより
【猫びより】この子たちがいるから、頑張れる!【from Japan】(辰巳出版)

【猫びより】この子たちがいるから、頑張れる!【from Japan】(辰巳出版)

(猫びより 2020年11月号 Vol.114より)

  • サムネイル: 猫びより編集部
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「中国茶とお酒のお店 喜助(きすけ)」は、日本一長い商店街として有名な天神橋筋商店街から、通りを3本ほど離れた場所にある。戦前の古い家屋が残る界隈は、にぎやかな商店街とは対照的な風情を持つカフェやバーの穴場だ。

オーナーの井上義治(よしはる)さんとやよいさんご夫妻日く「お店は築100年以上の長屋を改装したもので、2階が私たちの住まいです。猫たちと暮らしながらこぢんまりと商いをするには、ピッタリのお家です」。

「2匹と2人って、最強の家族!」と猫愛どっぷりな義治さんとやよいさん

「2匹と2人って、最強の家族!」と猫愛どっぷりな義治さんとやよいさん

しかし今年1月、お店の名前である先住猫の喜助が癌で亡くなった。癌の兆しなどまったく見せず直前まで元気だった喜助を失った悲しみは深く、やよいさんは「おやつは先住猫ファーストで、2匹目の猫の茶月(さつき)にはいつも喜助の後にあげていました。最初におやつを食べられることを理解できない茶月が、喜助が現れるのを待つ姿を見るのは辛く、生活の何ひとつとっても喜助はもういないのだと思い知る日々でした」と、当時を振り返る。

喜助の不在が癒えないまま訪れた春に、お客さまを介した知人から、保護された母猫と4匹の子猫が里親を探しているとの連絡を受けた。そして新型コロナの影響で先が見えない営業自粛が続くからこそ、腹を括った。

「時間がある自粛中ならば、新しい猫が来てもお世話に集中できます。でも飲食業はお客さまに来ていただかないと立ち行かない商売。確実に収入を得られるほかの仕事に転職することも覚悟もした上で、責任を持って生後1ヶ月の子猫を引き取ろうと決めました」。

お店に迎えた当初は、こんなに小さかった銀次(写真提供・井上やよい)

お店に迎えた当初は、こんなに小さかった銀次(写真提供・井上やよい)

4月25日に迎えた黒毛の子猫には「銀次(ぎんじ)」と名付け、その約1ヶ月後には営業を再開した。乳飲み子の時からご夫妻が育てた茶月は人見知りがなく、お客さまのいる1階のお店と2階の住まいを気ままに行き来する。その茶月を「お姉ちゃん」と慕う銀次も、自然とお店に姿を見せるようになった。

お客さまのいない昼下がり。カウンターをパトロールする銀次(手前)と茶月

お客さまのいない昼下がり。カウンターをパトロールする銀次(手前)と茶月

「今では茶月と銀次と会うために足を運んでくださるお客さまも増えたので、猫漫画を揃えたり、猫メニューを作ってみたり。猫愛がヒートアップしています」とやよいさんが言えば、「以前はオーセンティックなバーに勤めていたクールな私たちを知っているお客さまからは、『猫が好きすぎて、お二人のキャラが変わった?』と笑われます」と嬉しそうな義治さん。そしてご夫妻はきっばりと言う。

猫メニューのひとつ、「肉球フィにゃんシェ」を絶賛オススメ中の茶月

猫メニューのひとつ、「肉球フィにゃんシェ」を絶賛オススメ中の茶月

「喜助の訃報は常連の方のみにお伝えしましたが、皆が喜助を哀悼してくださいました。喜助、茶月、銀次。お客さまに愛されているこの子たちがいるから、心が折れそうになるコロナ禍も乗り越えられます!」

中国茶とお酒のお店 喜助

中国茶とお酒のお店 喜助


大阪府大阪市北区黒崎町13-13
TEL 06-4256-6138
営業時間:11:00~24:00
定休日:月曜
Facebook:@kisuke.kss

写真・文 堀晶代

Hori Akiyo
日仏を往復するワイン・ライター。著書に「リアルワインガイドブルコーニュ」(集英社インターナショナル)。大阪の自宅には拾ったメインクーンとアメショーが2匹。

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