緯度が高く冬は日が短い国に暮らすからなのか、フランス人は太陽をこよなく愛している。なかでも南仏のまばゆい光は別格だ。夏は多くの人でにぎわう南仏の街並みだが、ここ数年は猫カフェが次々とオープンしているという。時計が夏時間に変わり、いよいよ日が長くなるのを待って、のんびりと南仏を西から東へと旅してみた。光と猫に出会えることを期待して……。
いらっしゃいませ! (トゥールーズ/シャプリスティ)
トゥールーズ
シャプリスティ セラーに流れる上質な時間
人々が集うキャピトル広場
レンガ色の建物が夕日に輝く様子から、「バラ色の街」と呼ばれるトゥールーズ。中心のキャピトル広場から徒歩数分、小さな通りに面した「シャプリスティ」には目立った看板もない。
スタッフのジュスティーヌさんと、1歳のモーツァルト
しかし正午にオープンするやいなや、続々とお客さまが訪れる。カウンターでは猫が「いらっしゃいませ」とでも言うようにお迎えしてくれるけれど、コンパクトなカフェスペースにこれだけの人が入れるのかしら? と思い始めたとき、「地下へどうぞ」とスタッフに声をかけられた。
ついついテーブルに乗ってしまう、いたずらっ子
階段を降りると、そこはシックな1階とはまったく雰囲気が違う、広々としたレンガ造りのセラー! どんどんと席が埋まっていくが、猫たちはいたってマイペース。ぐっすりと眠っている子もいれば、お客さまに興味津々の子もいる。そんな猫たちを眺めながらのランチタイムは、なんとも温かみがあり和やかだ。
カウンターでお出迎え
「地元の猫学校(保護活動)と協力しながら、バラ色の街らしい店作りを心がけたのが人気を呼んでいるのだと思います」とは店主のシャルロットさんとジャン・バティストさん。ランチも素敵だが、ティータイムをセラーで過ごすのも粋である。
Chapristea
Chapristea
4, rue Jules Chalandes 3 1000 Toulouse
http://www.chapristea.com
ナルボンヌ
リュニヴェール・ド・カマ 太陽と風を感じながら
名所のひとつであるカテドラルは、内部も壮麗
ローマ時代の遺跡や中世の建築物など見どころが多いナルボンヌの中心部から、タクシーで約7~8分。住宅街に猫の目をモチーフにした看板をかかげる一軒家がある。「リュニヴェール・ド・カマ」はフランスで唯一、屋外の庭付き猫カフェだ。
猫じゃらしで一気に木を駆け登る
「猫たちには外の空気や、草木や土の感触を楽しんでほしかったから」という店主のバルバラさん。迎えてくれる11匹の猫たちは、みなナルボンヌで保護された子だ。最初は人見知りする子もいたらしいが、「猫の心を開かせるためには、人が変わることが大切」と話す。
庭のテーブルの足下でノンビリ~
「お客さまには丁寧に、猫との接し方を説明しています。人の気持ちや行動は、猫にも伝わるのですね。今は猫たちも、人は遊んでくれたり撫でてくれる存在と分かったみたいで、お客さまがいらっしゃるのを心待ちにしていますよ」。たしかに店内に足を踏み入れると、数匹の猫が「待ってました!」と言わんばかりに寄ってくる。
太陽の下で、バルバラさんと猫たち
もっとも長居したお客さまは7時間(!)というが、猫たちと一緒に室内や庭を自由に行き来していると、まるで我が家にいるようにくつろいでしまう。
L’Univers de Kama
L’Univers de Kama
3, rue de Plaisance 11100 Narbonne
http://www.universdekama.fr
モンペリエ
カフェラン 猫と人のZEN(禅)な関係
青い空に映える小さな凱旋門
古き良きパリのような街並みに、地中海性気候の心地よさ。モンペリエは散策が楽しい。歩くことに疲れたら、ふらりと立ち寄ってみたいのが「カフェラン」だ。地方都市としては、フランスで初の猫カフェである。店主のマリオンさんは、「行き場のない猫たちに、セカンドチャンスを与えることができないかしら? と考えたことが、猫カフェを作ったきっかけです」と話す。
お互いを知っているかのような静かな時間
モンペリエの飲食店はどこもにぎやかである。だからこそカフェランを訪れるお客さまは、猫の存在を感じられる、静かで穏やかな雰囲気に心惹かれているようだ。「小さな店なので、ひとりひとりのお客さまにまで目が行き届きます。何度かいらっしゃると顔見知りになりますし、猫を通して人の輪も広がっていますよ」。
そろそろ遊びたいモードな子
常連のお客さまと猫の様子を見ていると、そこにはごく自然な形で、確かな信頼関係がある。フランス人は「ZEN(禅)」という言葉を幅広くポジティブな意味で使うが、マリオンさんいわく「癒やしとは一味違う、ZENのエスプリですね」。座っているだけで、心が落ち着いてくるから不思議である。
「この子とは長い付き合い!」と目を細める男性
Kafelin
Kafelin
14, rue Durand 34000 Montpellier
http://www.kafelin.fr
ニース
ラ・ロンロンヌリー ハートも胃袋もわしづかみ
ビーチ沿いに延びる散歩道、プロムナード・デザングレ
猫が鳴らす喉のゴロゴロは、フランス語で「ロンロン」。だからフランス最大のリゾート地、ニースにある「ラ・ロンロンヌリー」は、さしずめ「ゴロゴロ屋さん」と訳せるだろう。
野性味とチャーミングさが溢れる子
2年前にオープンしたときは、もの珍しさから店を訪れた人たちも、まずは社交的な猫たちにノックアウトされ、さらには手作りのランチとスイーツの美味しさも瞬く間に評判に。ニースっ子のハートと胃袋をわしづかみした。
猫が振り向いてくれるまで待つ時間も、なんだか楽しそう
「お客さまは働き盛りの女性が多いですが、小さな子供たちから高齢の方まで客層は幅広いですね。猫は普遍的な存在ですから」と、店主のポトーさんとプリシラさん。ハイシーズンの夏になると海外の観光客も増え、なかにはニースに来る度に立ち寄るリピーターもいるらしい。
猫大好き! な男の子
「猫はそれぞれ性格が違うけれど、お客さまの国籍や過ごし方もじつに様々。いろいろな個性があることで、和気あいあいとした空気が生まれています。昨年は日本からのお客さまもいらっしゃいました。ニースの思い出に、私たちの店で過ごした時間もあれば嬉しいです」。リゾート地で猫とロンロン。楽しくないはずがない!
午後の陽光が差し込む明るい店内
La Ronronnerie
La Ronronnerie
4, rue de Lépante 06000 Nice
http://www.laronronnerie.fr
(写真・文 堀 晶代)